ユートピアに至る物語(週刊読書人95年2月17日)

池上永一『バガージマヌパナス』と、銀林みのる『鉄塔武蔵野線』

 ファンタジイノベル大賞(第六回)は初の二作同時受賞となった。池上永一『バガージマヌパナス』(新潮社・一四〇〇円)と、銀林みのる『鉄塔武蔵野線』(新潮社・一四五〇円)である。前者は、沖縄のとある島で、ユタ(シャーマン)となるよう、神様から宣告を受けた少女の物語。後者は、七〇数基にもなる高圧線の鉄塔群(三四〇枚の写真付き)を、二人の少年がたどっていく物語。どちらも、これまでの受賞作とは違う、不思議な達成感に満ちた後味を残す。現代の少女が、南国の自然のままに生きても、何の不自然さも感じさせない舞台設定や、鉄塔の涯にある変電所で、世界の秘密を解明する瞬間は、まさにユートピアへの到達と読めるからである。こういった感慨は、なかなか味わえるものではない。ある意味で、良質の児童文学にめぐりあえたかのようだ。特に『鉄塔武蔵野線』は、写真がカラーで、もっと大きく掲載されていれば、読者に違った効果を与えてくれたかもしれない。さまざまな可能性を残した作品でもある。

荒巻義雄の、『シミュレーション小説の発見』

 紺碧シリーズや要塞シリーズなどで、シミュレーション(架空戦記)小説の先駆けとなった荒巻義雄の、『シミュレーション小説の発見』(中央公論社・一二〇〇円)は、シミュレーション小説≠フ存在意義を広範な心理・歴史・哲学書等から説き起こしたもの。各種学説の説明が、本書の約三分の二強を占める。オリジナルを喪失し量産コピーに埋もれた現代社会では、シミュレーションこそが世界の本質に迫りうる概念であるという。もともとデビュー時から評論を得意とした著者だけに、SF論・社会論として読んでも面白いだろう。ただ、哲学を趣味とする著者のインプット(六〇冊におよぶ参考文献)にくらべ、各章のボリュームが少ない。小説の可能性自体については、もう少し詳しく読んでみたかった。

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