時の守護者たち(週刊読書人95年3月10日)

ポール・アンダースン『タイム・パトロール/時間線の迷路』

 古典(といっても、SFがジャンル的に成熟してから五〇年以内)の、なつかしの続篇がまた出た。『タイム・パトロール/時間線の迷路』(大西憲訳、早川書房・五八〇円)である。最初の作品集(オムニバス中篇集)が出たのは一九六〇年のことなので、三〇年ぶりの再開となる。今ではありふれた、正しい時間の流れを管理する警察組織=タイム・パトロール、というアイデアも、アンダースンが初めて体系化したものだ。時間SFは、タイム・パラドクスを狙うロジカルな作品から、人生の悲哀を描くメンタルなものまで種々雑多にある。しかし、アンダースンは歴史、それも中世以前のヨーロッパ史に傾倒しており、本書でもそんな著者の特質が横溢している。正編にならって、中篇集仕立てとなっているが、最後のエピソード、十字軍時代を舞台にした、歴史の流れの分岐点となる人物との絡みが白眉である。最近の時間理論や類書の氾濫後では、アイデア自体にみるべきものはないけれど、正統派の強みを味わうことができるだろう。ちなみに、正編の『タイム・パトロール』は、過去、豊田有恒らに大きな影響を与えた。たとえば、『モンゴルの残光』(一九六七)など、本家を上回る傑作を産んでいるが、その主人公の名前ヴィンス・エヴェレットを見ても、本書の主人公マンス・エヴァラードを十分に意識したものだった。

J・P・ホーガン『マルチプレックス・マン』

 その他では、J・P・ホーガン『マルチプレックス・マン』(小隅黎訳、東京創元社・上=五五〇円・下=五三〇円)は、他人の人格を植え付けられた人物を巡る、一種のスパイスリラー。ホーガンの旧来のファンなら、新趣向を楽しめる。ただ、SF生え抜きの作家だけあって、物語は最後までSFの範疇に収められており、その点やや食い足りないかもしれない。

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