95年SFベスト・国内外の超大作の刊行が目立つ年

 まず昨年と同じように、今年一年間の概況・話題作をカレンダー風にまとめてみる。

[一月]『フランケンシュタインの子供』(角川書店)は、風間賢二がファンタジイからSFまでを幅広くまとめたアンソロジイ。編者は他にも『天使と悪魔の物語』(筑摩書房)など、多くのテーマでアンソロジイを編んでいて、我が国では数少ない貴重な存在といえる。

[二月]アンダースン『時間線の迷路』(早川書房)は懐かしの続篇。マクドナルド『黎明の王 白昼の女王』(早川書房)は、SFに踏み込んだファンタジイとの境界作品。

[三月]篠田節子『夏の災厄』(毎日新聞社)は、新しいタイプのパニック小説として話題になった。ウエイジャー『未来からの遺書』(二見書房)はウエルズ的な未来小説。奇想作家バクスター『時間的無限大』(早川書房)は、アイデアでは本年随一といえる。

[四月]『8』の作者、ネヴィル『デジタルの秘法』(文藝春秋)は前作よりファンタジイ臭が少ない作品。草上仁『愛のふりかけ』(角川書店)は、いつもながらのユーモラスな未来風景を描く。一方ホラー小説大賞の瀬名秀明『パラサイト・イヴ』(角川書店)はベストセラーにもなった。

[五月]ラシュコフ編ノンフィクション『サイベリア』(アスキー)は、サイバーパンクたちの背景を探る意味でも面白い。ト学会編『トンデモ本の世界』(洋泉社)もノンフィクションながら、SFファンの考え方がよくわかる本。カードは『神の熱い眠り』と『キャピトルの物語』(早川書房)を出したが、小粒な印象である。

[六月]昨年暮の『ハイペリオン』に続く、シモンズ『ハイペリオンの没落』(早川書房)は、オムニバス風の前作から一転して長編の体裁。また、ニューマン『ドラキュラ紀元』(東京創元社)は、賑やかな登場人物をSF風に料理したもう一つのロンドンの物語。

[七月]梅原克文『ソリトンの悪魔』(朝日ソノラマ)は、いつも毀誉褒貶の交錯する作者の大作。現代文学を論じたラリイ・マキャフリイ『アヴァン・ポップ』(筑摩書房)は、必然的にSF論でもある。ラッカー『ラッカー奇想博覧会』(早川書房)は、日本で編まれたオリジナル短編集で、この作者の人気を物語る。

[八月]北村薫『スキップ』(新潮社)は、単純なSFアイデアで一種の学園小説を書いたもの。ジェイコブスン編『シミュレーションズ』(ジャストシステム)は、新旧取り混ぜた意欲的なアンソロジイ。SF大賞特別賞の野田昌宏『「科學」小説神髄』は、三十年前の今を現出させた功績が大きい。コールダー『デッドガールズ』(トレヴィル)は、タイとヨーロッパを舞台にしたナノテクSFである。

[九月]ビッスン『赤い惑星への航海』(早川書房)は、SFの懐かしさ≠思い出させる好編。

[十月]SF大賞作家の神林長平『魂の駆動体』(波書房)は、これまでの同種の作品中でもっとも具体的≠ネ対象である車≠ェテーマ。『復刻S−Fマガジン』(早川書房)は、かつて数万円もしていた創刊号が手軽に読めるという意味でも貴重だろう。アシモフは『ファウンデーションの誕生』(早川書房)で、自身の暗黒面を覗かせている。ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』(早川書房)は、翻訳では本年最長の超大作。

[十一月]眉村卓『引き潮のとき』(早川書房)が完結。九〇年代後半の日本SFを語る上で、きわめて重要な作品である。ヴィンジ『遠き神々の炎』(東京創元社)は、物語がアイデアを越えられなかった。

[十二月]ウォリック『サイバネティックSFの誕生』(ジャストシステム)は、サイバネティックの視点からSFを分析した好著。また、『小松左京コレクション』(ジャストシステム)全五巻が完結した。本稿執筆時には未見であるが、ファンタジイ大賞受賞作も刊行される予定である。

 本年は、昨年のアスペクトと同様ジャストシステムの意欲的な刊行が目立った。こういったコンピュータ系の出版社では、もともとSFを受け入れる素地があり、これからもますます充実していく可能性が高い。

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