2005/9/4

Amazon『四畳半神話体系』(太田出版)

森見登美彦『四畳半神話体系』(太田出版)


装画:笹部紀成、装丁:木庭貴信(オクターヴ)

 今年1月に出た本。10月にある京都SFフェスティバル企画(著者インタビュー)記念、というわけでもないが今ごろ読んでみる。
 前作は、京大生のマジックリアリズムを描いた(とされる)。本書は、リアリズム(四畳半の下宿生活)の度合いを増し、さらに突き抜けてSF的要素を加えた作品となっている。
 主人公は大学の3回生、これまでのサークル活動を経て、自身の無意味な3年間を嘆いている。あのとき、別のサークルを選んでいれば、自分の運命も変わっていたに違いない。しかし、並列に並べられた3つの物語は、奇妙にも良く似た展開をたどり、ただ一点に収束していく。それこそが、主人公の住む四畳半のオンボロ下宿部屋だった。
 主人公を巡る本書の人間関係は、こんな調子。卒業の見込みもなく浴衣で棲息する正体不明の先輩、隠された趣味を持つ先輩のライバル、サークルの権力闘争で暗躍する不気味な後輩、飲むと態度を一変させる女性歯科技工士、変人の彼らをものともしない工学部の女子大生。彼らを結びつけるのは、『海底二万海哩』、熊のぬいぐるみ(表紙)、大量発生した蛾の群れ、猫の出汁をとるというラーメン屋、占い師の老婆……なのである。舞台装置がひどく古臭いのに、いかにもありそうに感じさせるのは、舞台が京都だからかもしれない。最終章はSF。「歪んだ家」(ハインライン)や「遠い座敷」(筒井康隆)を思わせるものの、本書の謎解きを一挙に済ませてしまう手際のよさは、淀みのない語り口と相まって著者の才能だろう。

bullet 著者の紹介記事
bullet 『太陽の塔』評者のレビュー
 

2005/9/11

 5月に出た本。「クチュクチュバーン」(2001)で文學界新人賞を受賞し、「ハリガネムシ」(2003)で芥川賞を受賞した作者の長編第1作。この作品自体は、短編集『クチュクチュバーン』(2002)に収録された、「人間離れ」(宇宙?から飛来した、異界の生物に襲われ逃げまどう人々の有様を描く)の長編化を意図したものである。
 近未来の日本、都市は退廃し、住む人々は疲弊して希望はない。いたるところに「テロリン」と呼ばれるテロリスト集団が出現、無差別に破壊と殺人を繰り広げているからだ。テロリン撲滅を訴えナショナリズムを鼓舞する政府のプロパガンタに乗って、無数の人々が大陸へと出征していく。そここそ、テロリンの本拠地なのだ。しかし、遠征した彼らを待っていたのは、奇怪な生き物たちの群れだった。
 お話の後半3分の2は、大陸でのサバイバルゲームだが、相手は人間でも野生生物でもない。「クチュクチュバーン」(ある日、人々の体が怪物へと変貌を始める)などにも登場する、さまざまな生物/無生物とのキメラなのである。人体/生物変容の不気味さは、筒井康隆『幻想の未来』(1964)や椎名誠『アド・バード』(1990)、古くはオールディス『地球の長い午後』(1961)の悪夢世界を思わせる。ただ、都市の瓦礫を背景に、流血や殺人/殺戮に溢れる非人間的な(言いかえると、人の死が無機質に描かれる)描写は、ダイナミックでいかにも現代的。その中で、肉体労働者の男と、売春をする女との情交が唯一現実との接点を保っている。
 著者の考えるアイデアのうち9割はSF、たまたま出てきた私小説的なお話「ハリガネムシ」が芥川賞を取ったという。本質的には奇想作家なのだろう。
 

bullet 著者のインタビュー
 

2005/9/18

Amazon『デカルトの密室』(新潮社)

瀬名秀明『デカルトの密室』(新潮社)


カバーイメージ:渡辺豪「フェイス(face)」、装幀:新潮社装幀室

 瀬名秀明の新作長編である。著者の最近の興味であるロボットと知能をテーマにしたSFなのだが、殺人事件の真相を探るという点で“密室ミステリ”でもある。また、島田荘司のアンソロジー『21世紀本格』(2001)に掲載された、ロボット版「モルグ街の殺人」である「メンツェルのチェスプレイヤー」と、登場人物が共通している。
 チューリング・プライズは学会とAIコンテストを兼ねた大会である。生物学・進化心理学者のレナと、ロボット工学者のユウスケ、そして彼らの育てたケンイチは大会で意外な人物と出会う。10年前に亡くなったはずの天才科学者フランシーヌだ。3人は、彼女が仕掛けた巧妙な殺人トリックと、密室の罠に捕らえられる。ロボットの知能だけでなく、人の知能の意味をも問う、“デカルトの密室”とは何か。自らを変貌させたフランシーヌの正体とは何か。市場に溢れる量産擬体エージェント(アンドロイド)は、何のために作られたのか。
 哲学からロボット工学、心理学、身体論、倫理学まで、本書中で言及された中身は多彩。また、知能を構成する要素に純粋な人間の感情を含め、あえて(“知性”という独立した存在があるというような)常識的な見方とは異なる見解(たとえば「物語」)を主張するのも瀬名流の特徴だろう。その点は、『ブレイン・ヴァレー』と同様だし、身体的/生物的なものが人を形成するという意味で、テッド・チャンやイーガンともよく似た見解だ。
 しかし、それにしても、瀬名秀明の描く女性(『パラサイト・イヴ』のミトコンドリアの“化身”、本書のフランシーヌ)の妖美さ、不気味さもまた独特である。実のところ、本書で一番不条理/不可解を感じさせる存在は、ロボットよりもその女性たちなのだから。
 

bullet 社会的知能発生学研究会のレポート
 出版に先駆けて発表された講演内容。なお、著者は「けいはんな社会的知能発生学研究会」と記載しているが、正確には「けいはんな」(京阪奈丘陵にある、つくばと同様の学術研究都市の呼称)は付かない。トップページはこちら

bullet 著者の公式サイト
bullet 新潮社『デカルトの密室』公式サイト
 

2005/9/25

Amazon『テクノゴシック』(集英社)

小谷真理『テクノゴシック』(集英社)


造本装幀:ミルキイ・イソベ(ステュディオ・パラボリカ)

 1993年のSFマガジン「テクノゴシック」特集以降、同種の論考を集めたエッセイ集。折しも、ゴスロリ・ファッションが話題になる昨今だが、著者はウィリアム・ギブスンが「テクノゴス」と評したとされるストーム・コンスタンティンを例に挙げ、サイバーパンク(インターネットと遺伝子工学)、オカルト、ニューエイジ、フェミニズム、(ゴス・)ロック等をその特徴としている。端的にいえば、ハイテクの中のオカルトなのであり、20世紀末から今に至るまでと、18世紀末-19世紀初との類似性も探る。その枠内で、吸血鬼、狼男、人形+ロリ服と話題をつなぎ、テクノゴシックの代表作として、ウォシャウスキー監督『マトリックス』、押井守監督『イノセンス』の評論で締める。
 テクノロジーが進化すると魔法に見えてくる(クラークの法則)けれど、人間の本性からすれば、むしろテクノロジーを親和させるために、人はハイテクをオカルト的に解釈をするのではないか。科学/技術は専門知識を前提とするが、オカルトは直感だけで十分「理解」できる。ハイテクとオカルトは、そういう意味で親和性が高いのである。本書では、早くからその点に関心を寄せていた著者の見方が楽しめるだろう。

bullet 『女性状無意識』評者のレビュー
bullet 『エイリアン・ベッドフェロウズ』評者のレビュー
 

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