Best SF 2010

【国内篇】(刊行日順:2010年11月-11年10月)
 

Amazon『原色の想像力』(東京創元社)
 
大森望・日下三蔵・山田正紀編『原色の想像力』(東京創元社)
 「うどん…」は同賞佳作、「土の塵」は日下三蔵賞、「盤上の夜」は山田正紀賞、「さえずりの宇宙」は大森望賞とされている。ここで審査員名を冠しているのは、各評者の評価が高かったことに由来する。さてしかし、「うどん」のように普通に読めば全くSFではない作品が佳作となる一方、受賞作「あがり」がSF的理屈を捏ねた作品であることからも、第1回応募作の多様さがうかがい知れる。応募時点から改稿が行われたためか、本書の収録作にアマチュア的な危うさはほとんど感じられない…
Amazon『ダイナミックフィギュア(上)』(講談社)
 
三島浩司『ダイナミック・フィギュア』(早川書房)
 数年にわたる構想と、ほぼ1年がかりの執筆で書かれた大作。ロボット兵器登場の背景は、これまでの著者の作品のような唐突さはなく、非常によく練られている。巨大ロボット戦闘もの/ハイティーンの若者がパイロットなど、アニメの類作を踏襲しているのに、ありふれた印象を残さないのは、独特の用語による異化作用もあるだろう。究極的忌避感、孤介時間、ボルヴェルク、フタナワーフ、ソリッドコクーン、ハノプティコン、STPF、ワン・サード等、それぞれに意味づけがある。登場人物も多様で複雑だ…
Amazon『11 eleven』(河出書房新社)
 
津原泰水『11 eleven』(河出書房新社)
 物語の中身というより、独特の文体がまず強く印象に残る。作品によって、それぞれ異なるスタイルが採用されている。もちろん本文もまた、文体と似て特徴的なものである。娘はなぜ延長コードを集めるのか、父と叔母はどういう関係だったのか、彫刻家の見たものの正体は何だったのか、「でも私には何もくれない」というフレーズ、キリノと主人公との関係は、手を見たとき主人公の少女はどうなっていたのか、なぜ女はグレート・デンを飼うのか、YYの行為の意味は、女の唄うアリアとは、そして替え玉となった地主はなぜ幸福なのか――などなど、全篇が謎に満ちているようでもあり、そもそも謎の解明などどうでもよいことなのかもしれず、まさに混沌へと引きずり込まれていくのである…
Amazon『希望』(早川書房)
 
瀬名秀明『希望』(早川書房)
 著者は物語の中で、グレアム・グリーンの著作を引いて、エンタテインメントでは常道のドラマツルギー(作り物めいた盛り上げ)を否定する。そのため、お話の展開は論理的であっても感覚的理解が難しい。例えば、本編の語り手は少女ともう一人なのだが、その行動の意味/破局に至る結末などは、単純に納得できないだろう。しかし、21世紀の今を考えてみたとき、世界と我々との関わりは、唐突で不連続に変化するものと分かってきている。瀬名秀明が描く科学者たちの物語は、現代の延長を超えた見知らぬ明日を予見しているのである…
Amazon『これはぺんです』(新潮社)
円城塔『これはペンです』(新潮社)
 2中編を収録する。表題作は画期的な文書の自動生成装置(プログラム)を創出した叔父と、姪との間で交わされる手紙で構成されたもの。もちろん、自動生成された論文は、非常に本物らしいがニセモノだ。叔父は正体不明で、流布された写真も贋物しかない。ランダムから意味のある文書を綴る、同じようにランダムなDNAから、正常な遺伝子を生成することができるかもしれないと仄めかす。叔父とは何者か、そもそも叔父はリアルに存在するのだろうか。本書の2作は、どちらも抽象的ではあるものの、現代SFの主要テーマ(仮想現実と仮想記憶)を扱っている…
【コメント】(上記は順不同、刊行順)
 大森望のアンソロジイは『NOVA』が3冊、年刊傑作選『結晶銀河』も出ているが、今年は新人賞アンソロジイを選んでいる。これ以外でも、眉村卓『沈みゆく人』、萩尾望都『音楽に在りて』、篠田節子『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』宮部みゆき『チヨ子』山野浩一『傑作選 鳥は今どこを飛ぶか』『殺人者の空』(新編集版)など面白い短編集が幅広く出た。横田順彌の豪華なハードカバー『近代日本奇想小説史』、震災と小松左京追悼の意味を併せ持つ、笠井潔・巽孝之監修『3・11の未来 日本・SF・創造力』にも注目。

【海外篇】(刊行日順:2010年11月-11年10月)
Amazon『エステルハージ博士の事件簿』(河出書房新社)
 
アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(河出書房新社)
 主人公エステルハージ博士は、7つの学位を有し、スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国の由緒ある伯爵家に産まれながら、在野の学者として名を知られている。19世紀末、蒸気自動車が普及しようとしてはいたが、帝国の随所には中世やイスラム時代の文化が色濃く残っている。そこで巻き起こる事件は、神秘的/怪奇的というより、(現在の我々から見れば)異質の事件といって良い。まさに「異文化」との遭遇に近い体験だ。本書はそういう意味で、いわゆるミステリでもなく、多くのファンタジイとも違う…
Amazon『ドクター・ラット』(国書刊行会)
 
ウィリアム・コッツウィンクル『ドクター・ラット』(河出書房新社)
 動物実験で多くの動物が犠牲になる事実は、近年改善に向かう傾向にはあるがまだ十分ではない。ただし、本書が描くビジョンは単純な「動物実験反対」とは違う。ドクター・ラットが叫ぶ正当性(科学と人類に対する貢献)は、人間の主張の滑稽なパロディともなっている。我々が生きていく社会がどのような前提で成り立つのかを、端的に述べているのだ。動物実験を廃止できても、食肉の廃止や家畜の開放ができるわけではない。そして、その論理は人種や民族、性別といった人間同士の差別/虐殺にも簡単に敷衍される。人間社会の原罪を全面的に改めることは、もはや不可能なのだと作者は主張している…
Amazon『ねじまき少女(上)』(早川書房)
 
パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』(早川書房)
 ここで「ねじまき」とは、化石燃料エンジンが高価過ぎて使われなくなったため、バイオ的な“ぜんまい”が動力の代名詞となったことに由来する。23世紀を象徴する言葉だ。作品のエキゾチックさを増す語感がある。本書のストーリーは、政治的な抗争というより、端的に書いてしまえば“仁義なき戦い”を描いたヤクザ映画である。それぞれ暗い過去を背負った登場人物たちが、お互いの生命を賭けて暗闘を繰り広げる。その動機や経緯も非常に良く書けていて、読者を飽きさせない…
Amazon『クロノリス―時の碑―』(東京創元社)
 
ロバ-ト・チャールズ・ウィルスン『クロノリス』(東京創元社)
 設定が実にミステリアスである。何者が作ったのかも、どのように作られたかも分からない石碑が、わずか20年の未来からやってくる。しかも、碑文に書かれた人物を誰も知らない。主人公はたまたま出現に立ち会うのだが、実はそれは偶然ではない。さまざまな“運命”が絡み合い、謎めいた暗合が彼の生きざまを捻じ曲げていく。著者の他の作品にも見られるこの曖昧さは、奥行きとなる場合と、単なる韜晦としか感じられない場合があるが、本書では前者と見なせるだろう。「1つではない」時間線と、「1つに収斂してしまう」人生を、(時間+乱流から作られた)タウ・タービュランスというSF的な造語に結びつけた結末が鮮やかだ…
Amazon『奇跡なす者たち』(国書刊行会)  ジャック・ヴァンス『奇跡なす者たち』(国書刊行会)
 見て分かる通り、これらは50年から60年代初め(優に半世紀前)に書かれた作品である。そのため、SF的な仕掛け自体は古めかしいものが多い。しかし、ヴァンスが描くのはアイデアだけではないのである。煌びやかな情景や、細部の肌理細かさこそがポイントだ。今読んでも、その点の新鮮さは少しも損なわれていない。例えば、「フィルスク…」の陶器の描写や、「月の蛾」の楽器に対する薀蓄は、他の作家に見られない特徴だろう。「奇跡なす者たち」と「最後の城」などは、同じアイデアで書かれているのに、ずいぶん印象が違う。小道具や人物描写を変え、前者はユーモラスに、後者は華麗にと、力技で描き分けた結果である…
【コメント】(上記は順不同、刊行順)
 ベストからは外れたが、翻訳では日本オリジナルのアンソロジイ、山岸真編『スティーヴ・フィーヴァー』『プランク・ダイヴ』高野史緒編・東欧SF傑作選『時間はだれも待ってくれない』R・A・ラファティ(井上央編)『翼の贈りもの』が忘れがたい。この他、エリック・マコ―マック『ミステリウム』コリイ・ドクトロウ『リトル・ブラザー』や、サム・ウェラーの伝記『ブラッドベリ年代記』、あと何といっても、スティーヴン・キング『アンダー・ザ・ドーム』サミュエル・R・ディレイニー『ダールグレン』という伝説の大作が翻訳されたことが大きい。