2017/5/7

大森望編『SFの書き方』(早川書房)

大森望編『SFの書き方』(早川書房)

装幀:仁木順平

 昨年4月に開講され、本年3月の第1回ゲンロンSF新人賞の選出で終わった市民講座「ゲンロン 大森望SF創作講座」1年間の講義(全10回)から、主にゲスト講師との対談、鼎談部分を抜き出した内容になっている。毎回発表される創作課題と、それに対する梗概、巻末には新人賞受賞作を含む2作品の実作も掲載されている。大森望は多くの新人賞の審査に関わり、新人を発掘する立場でもある。マーケティング面やテクニカルな面を含め幅広い知見を持つが、(ノヴェライズはともかく)オリジナルの小説を書く仕事はしていない。そういう不足分は、ゲスト講師に語らせようということだろう。この講座は東浩紀のゲンロン主催で、約17万円の受講料がかかる。単独講師の一般的なカルチャースクールよりかなり高額ではあるが、複数の現役プロ作家や編集者から直接講評を受けられる、ゲンロンのWebサイト上でオープンに公開される(読者評価も得られる)というアドバンテージがある。第1期の受講生は40名だった。

 講義篇:ゲンロンSF創作講座へようこそ(大森望)『これがSFだ!』という短篇を書きなさい→定義(東浩紀)『変な世界』を設定せよ→ 知性(長谷敏司)『エンタメSF』の設計→構成(冲方丁)誰もが知っている物語をSFにしよう→情報(藤井太洋)テーマを作って理を通す→梗概・実作講評篇(宮内悠介)遊べ!不合理なまでに!→論理(法月綸太郎) “謎”を解こうとする物語の作成→家族(新井素子)読者を『おもてなし』してください!→文学(円城塔)決して相容れないものを並立させよ→宇宙(小川一水)→神(山田正紀)
 実作篇:「二本目のキュウリの謎、あるいはバートレット教授はなぜ時空犯罪者を支持することにしたのか?」 崎田和香子/「コランポーの王は死んだ」 高木刑→SF作家になる方法(大森望)

 講義篇では、まず各講師ごとにテーマが決められ、対談形式で講義が行われる。受講者の梗概・実作はゲスト講師を含めて毎回講評される。次に次回の課題のお題が示される(リレー連作のようだ)。受講者はそれに応じたテーマで梗概を書き、優れた梗概を書いたものは実作を提出する、という手順を踏む。巻末に収められたゲンロンSF新人賞受賞作「コランボーの王は死んだ」は、狼王ロボを追うシートンが遭遇する異星人の存在という組み合わせがポイント。著者高木刑は第1回の梗概からして巧く、もともと才能のある人なのだと感じられる。講義が1年間あるとはいえ、全くのゼロから成長するのは難しい。これぐらいの基礎を有する人こそが、講師の発言内容をもっとも有効に吸収できるのだろう。

 さてしかし、本書を読めばSFが書けるのかといえば、それは別問題だ(これは、本書標題の元ネタSFWA編『SFの書き方』でも同様だった)。本書で収録された作家による講義部分は、SF創作に対する各作家の立場表明になっている。日本SFの歴史や状況、それぞれの作家がどのように関わってきたかなどは、一般読者としても参考になる。しかし、実作の方法は各者各様、冲方丁のように結末を決めて逆算して書く、新井素子のようにインスピレーションのみでスタートさせるなどなどだ。さまざまということは、自分なりの方法を見つけ出せという意味になる。現役作家が試行錯誤の結果得た方法を、プロセスを抜きにして、いきなり真似ても成功は覚束ない。ただこの中で、梗概の書き方だけはほぼ共通している。少なくともここはマスターしておかないと、スタートラインにすら立てないだろう。


2017/5/14

シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画(上下)』(東京創元社)

シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画(上下)』(東京創元社)
Sleeping Giant,2016(佐田千織訳)

Cover Illustration:加藤直之、Cover Design:岩郷重力+W.I

 カナダ人作家の初長編である。モントリオール大学からシカゴ大学を経て言語学の博士号を取得、現在はソフトウェアや翻訳関係の仕事をしている。本書は、14か国で翻訳権が売れた注目作だ。子どもとロボット玩具を組み立てながら、そのロボットの由来を語り聞かせているときに、「グレンダイザー」(《マジンガーZ》)の再放送を見てインスピレーションを得た。出来上がった原稿を、50ものエージェントに付託するも無反応だったのが、オンラインレビューサイトのカーカスに送ると高評価を得て、その日のうちに複数の映画プロデューサからオファーがかかり、最終的にソニーに映画化権が売れたという。注目を集めるのは難しい(そもそも手に取ってもらえない)が、一度目立てば火が付く現代ならではのデビューだろう。

 1人の少女が、地表に露出した巨大な手を発見する。しかし6000年前という年代測定結果は出たものの、イリジウムを主体とする未知の合金で造られた手は、当時の文明との差異が大きすぎた。調査は壁にぶつかり、うやむやなまま長期にわたって放置される。ところが、世界各地からさまざまなパーツが見つかるようになる。腕や足、胴体、頭部、これらを合体させると、身長60メートルもの巨大人型ロボットになるのだ。いったい何ものがロボットを分解して埋めたのか、その目的は何なのか。

 物語は、インタビュアーが主要登場人物(物理学者、操縦者となる軍人や言語学者、遺伝学者など)と交わした、経時的な一連のインタビューにより構成されている。何か事件が起こるたびに、インタビュアーがその経緯を尋問する、あるいは意見を聴取するという形式だ。ロボットのパーツを集める組織は、初めアメリカ軍がバックにつくが、国際紛争を巻き起こすようになると独立した組織へと変貌していく。プロジェクトを進めるインタビュアー自身が、どういう人物か良く分からないのも面白いところだ。

 個性的なクルーたち、国家から独立した組織、宇宙から来た合体ロボットとアニメ風設定になっている。元祖の「マジンガーZ」以来、そういうアニメは多種あるものの、著者がすべてを見たわけではないだろう。「パシフィック・リム」などと同様、直系の派生種とすべきなのかもしれない。

 英米で出版されるエンタメ長編小説は、基本3部作となっている。本書も3部作で、第2部Walking Godsが2017年4月に出たばかりだ。未完の第3部もそのうち出るだろう。残念ながら、本書だけでは完結していないので、次巻の翻訳を期待したい。


2017/5/21

人工知能学会編『人工知能の見る夢は』(文藝春秋) 光文社文庫編集部『ショートショートの宝箱』(光文社)

人工知能学会編『人工知能の見る夢は』(文藝春秋)
イラスト:加藤直之、デザイン:関口信介

光文社文庫編集部『ショートショートの宝箱』(光文社)
カバーデザイン:荻窪裕司

  人工知能学会30周年を契機に企画され、2016年11月に出た『人類とAIは共存できるのか?』の姉妹編ともなるショートショート集。学会誌2012年9月から2016年11月まで連載された、全24作家による27編を収録している。もともと「人工知能について書く」という以上の縛りはなく、本書における8つのテーマ分け(及び各章での技術解説)は学会側で行なったものである。学会誌に載った作品でもあり、学会として一般読者に対し最新研究を啓蒙する意味もあるのだろう。また、AI支援で書かれた1作「人狼知能能力測定テスト」を巻末に収めている。

対話システム:「即答ツール」若木未生/「発話機能」忍澤勉/「夜間飛行」宮内悠介 人と会話する人工知能・稲葉通将
自動運転:「AUTO」森深紅/「抜け穴」渡邊利道/「姉さん」森岡浩之 自動運転:認知と判断と操作の自動化・加藤真平
環境に在る知能:「愛の生活」林譲治/「お片づけロボット」「幻臭」 新井素子 「君の名は。」もしくは「逃げ恥」、それとも「僕の優秀な右手」:人とモノの関わり合いの二つの形・原田悦子
ゲームAI:「投了」林譲治/「シンギュラリティ」 山口優/「魂のキャッチボール」井上雅彦/「A氏の特別な1日」橋元淳一郎 ゲームAIの原動力としてのSFとその発展・伊藤毅志
神経科学:「ダウンサイジング」図子慧/「僕は初めて夢を見た」矢崎存美/「バックアップの取り方」江坂遊/「みんな俺であれ」田中啓文 脳のシミュレーション:コンピュータの中に人工脳を作る・小林亮太
人工知能と法律:「当業者を命ず」堀晃/「アズ・ユー・ライク・イット」山之口洋/「アンドロイドJK」高井信 AI・ロボットが引き起こす法的な問題・赤坂亮太
人工知能と哲学:「202X年のテスト」かんべむさし/「人工知能の心」橋元淳一郎/「ダッシュ」森下一仁/「あるゾンビ報告」樺山三英/「人工知能と哲学」久木田水生
人工知能と創作:「舟歌」高野史緒/「ペアチと太郎」三島浩司/「人工知能は闇の炎の幻を見るか」神坂一 どこからが創作?どこまでが創作?・佐藤理史 第4回星新一賞応募作 「人狼知能能力測定テスト」大上幽作 星新一賞への二回目の挑戦・佐藤理史

 作家の切り口はさまざまで、ストレートに斬りこんだものもあれば、捻りが大きくどこが人工知能テーマなのか不明、というものもある。文字通り対話だけで書かれた宮内悠介、ひたすら自分の事情を話す新井素子、AIがゲームの勝敗と違うものを読み取る林譲治、増殖を重ねるサブブレインのてんまつ田中啓文、落語家ロボットとのめまいを催す会話かんべむさし、などが印象に残る。

 人間型をしているか否か(声だけのものもある)に関わらず、AIは人と接するところに存在する。そのため、AI側に本当の知能がなくても、人間側が勝手に解釈してしまうことがある。論理的ではない、忌避・拒否感や愛情・親近感が産まれる。こういう側面は、本書で書かれている内容以上に、人の心の在り方、同時に対人的なAIの在り方を示唆しているようでとても面白い。

 同じショートショートがらみでは、光文社文庫から『ショートショートの宝箱』が4月に出ている。田丸雅智の活躍などで再ブームとなったのか、以前よりショートショートを頻繁に見かけるようになった。本書では、Web光文社文庫で行われている公募型の企画「SSスタジアム」の作品から14編が選ばれている(現在はオープン公募、本書収録時はメンバー限定のコンペ形式だったようだ)。ただそれだけでは作品数も不足するため、『異形コレクション ひとにぎりの異形』(2007)から8編、『同 物語のルミナリエ』(2011)から6編、『SF宝石2015』から2編、それぞれ実績ある作家の作品を再録している。これらを併せて、30作家30作品になる。ショートショートの場合、専門の新人賞を獲ってもなかなかプロデビューは難しい。本書には、過去にあった星新一ショートショート・コンテストの受賞者や、てのひら怪談などのホラー関係、江坂遊、高井信らの小説講座出身者など、多彩な出自の作家が寄稿している。プロ作家の作品は各自の個性を際立たせたものが目立つ(ユーモラスで怖い北野勇作、唄う詩のような西崎憲)が、SSスタジアム組は、むしろショートショートの定石を外さない手堅い作品(オチが明晰な海野久美、古典的なスタイルを捻った深田亨)が多い印象だ。


2017/5/28

宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(角川書店)

宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(角川書店)
装画:mieze、ブックデザイン:鈴木成一デザイン室

 宮内悠介は、2010年に創元SF新人賞でデビューした後の7年間で、第33回、34回の日本SF大賞を連続受賞(34回は特別賞)、『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学賞、『カブールの園』で第30回三島由紀夫賞を受賞するなど、SF系・エンタメ文学系・純文系と評価の幅を広げている。本書は「文芸カドカワ」で2015年11月から2016年8月まで連載されたもの。著者の持つ体験やメッセージをハイブリッドした作品で、次期直木賞有力候補ともいわれる。

 主人公は幼くして両親を空爆で亡くし、ソビエト崩壊のどさくさでアラル海の跡に成立したアラルスタンの後宮で暮らす。後宮といっても、初代大統領の考えもあって、ハレムとしてでなく女性を活用するための学習の場となっていた。そこには、日本、中東、ロシアなどさまざまな出自の女性たちがいた。ところが、ある日大統領が暗殺される。周辺諸国やイスラムゲリラが軍事介入すると聞くや、議会の議員たちは瞬く間に逃亡、後宮の女性たちが取り残される事態に。彼女たちは国を立て直すために立ち上がるが。

 アラルスタンは架空の国である。カザフスタンの一部であるカラカルパクスタン自治共和国の北側、アラル海が干上がり塩の砂漠となっているあたりを国土としている。中東寄りの中央アジアは、日本人にはほぼ馴染みがない地域だ。中国の西端、イランやアフガニスタンの北端、ロシアの宇宙開発で有名なバイコヌールからも数百キロ離れたところにある。カザフ、ウズベク、キルギス、トルクメニスタンと、周辺国の大半はイスラム教の国だが、多くはソビエト離脱後から独裁者に支配されている。旅行も簡単にはできない。そんな中で、アラルスタンは国家を構成する民族、遊牧民の自主性を生かした自由の国として設定された。油田があり、租税回避地として経済もある程度潤っている。

 Web雑誌「otoCoto」(2017.4.17)のインタビューに詳しいが、著者は連載が始まる前(2年前)に、舞台となった現地を1ヵ月に渡り取材している。同じイスラム圏といっても中央アジアは世俗的で、酒や女性の活躍に対して制約が少ないらしい。本書では、そういう背景が生かされている。また、モデルがあるのではなく、架空の国と架空の歴史を作った点でSF的だが、著者はSFについて「シンプルに私がイメージしているものは、最小のロジックによって最大のワンダーを得られる小説という感じでしょうか」と述べて、「今回の場合は環境改変ないし、ある意味でのテラフォーミング。(中略)それから歴史改変の要素が入っています」と本書のSF性を説明している。

 チェチェン出身の女性が大統領代行に名乗り出、日本出身の少女は成り行きから国防大臣になる。そこに精悍なゲリラの青年や、詩をうたい上げる得体の知れない商人が登場、後宮の枢密院を支配する老婆まで出てきて、キャラの豊かさでは宮内作品随一だろう。クライマックスになぜか歌劇が出てくるのはミュージカル「ブルース・ブラザーズ」の影響だという。

  • 『彼女がエスパーだったころ』評者のレビュー
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