Bologna ボローニャ:イタリア


 花の都フィレンツェからローマと反対方向へ約1時間。イタリアを縦に貫くアペニン山脈を越えると、列車はボローニャの駅に到着する。
 11世紀にヨーロッパで最初の大学が創立され、以後ヨーロッパの学問的中心として栄えた町、ボローニャ。
 教会の反対の中、大学で世界初の人体解剖が行われたというこの町に「人体解剖博物館」なるものが存在するという。それはいったいどんなところなのか?気になって訪ねてみることにした。


 中央駅を出てしばらく行くと古い町並みが顔を出す。中世のたたずまいである。独特の柱廊(ポルティコ)と呼ばれるアーチ型のアーケードが町じゅうに張り巡らされていて、その美しさに見とれて歩くうち、道に迷ってしまった。
 こういうときは人に訊くのがいちばん。
 さっそくつたない英語でおばちゃんに尋ねてみるが、相手は英語がさっぱりわからない様子。そら当たり前やわな、ここイタリアやねんから。
 今度は学生風の青年に訊いてみた。「人体解剖博物館?知らないなあ。ちょっと訊いてみるね。」彼は親切にもそこらへんの人を捕まえてイタリア語で訊いてくれている。だが、知っている人はいない模様。そんなマイナーな博物館に日本からわざわざ来るとヤツがいるとは...。

△人体解剖博物館
(Museo Di ANATOMIA UMANA)にて


 どうにか入口にたどり着き、扉を開けて驚いた。薄暗い廊下の両側には、背丈以上もある陳列棚に頭蓋骨がびっしりと並べられている。まるで髑髏トンネルである。トンネルを抜けると守衛室があり、そこで見学を申し込む。入場料は無料。少しして白衣の女性が案内に現われた。
 彼女について階段を上がってゆくと、廊下に立派なケースに入れられた等身大の裸の女性の人形が置かれており、何やらそれはガワを外すと内臓がしつらえてありそうな雰囲気。奥には骸骨も立っている。
 彼女は扉をあけると、私を中へ案内した。そこは蝋製の解剖標本が一面に並べられた部屋であった。頭蓋骨を開けて脳を手術している医者の姿、皮を剥いだ手、筋肉を剥いだ手、血管、心臓、目玉の分解模型、赤ん坊の成長過程などなど。中でも目をひいたのは、身ごもった女性の解剖標本である。ネックレスをし、ごく自然にガラスケースの中に横たわっている姿は、妙に艶かしい。

△人体解剖博物館にて

 あまり熱心に見ているので、医者か、学生かと尋ねられた。医者でも学生でもないと答えると、彼女は不思議そうな顔をした。
 ひととおり見終わってから備え付けの分厚い百科辞典のようなノートに記帳し、部屋を出た。
 ボローニャというと、年に一度絵本原画コンクールの開かれる都市でもある。そのメルヘンチックなイメージとは正反対のグロテスクなものに封印するかのように、彼女は扉の鍵をかけた。

   --1994.2


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