源氏無用物語

【東雲】 〜鷲羽の典侍〜





 ここは皇宮の学問所。
 その中でも特別の者にのみ許された専用の研究所で怪しげな笑い声が響いていた。

「ふっふっふっ。必要なデータは全て揃った。あとは肝心の『あの方』をお連れするだけ・・・。ああ、天才の探求心がうずく!ふっふっふ、はーはっはっは、わーはっはっはっは!!!」

・・・危なすぎ。
一般の者たちが畏れて近づかないのも無理のないことである。






 さて、天地の君は皇宮に参内してすぐ皇にお目通りし、そしてまたしても謎な公務をこなして昼過ぎにはもう退出しようとしていた。

「今日は二条邸でのんびりしようかな。」

 と穏やかな午後を過ごそうとしていた天地の君にいきなり文が届けられた。

「鷲羽ちゃん親衛隊Aで〜す!」
「鷲羽ちゃん親衛隊Bで〜す!」
「「天地の君様に文をお届けに参りました〜!」」
「え、ええっ?」

 予想だにしない展開にさすがの天地の君も驚いた。

「どうぞお受け取りくださ〜い!」
「ナマモノですのでお早めにお読み下さ〜い!」
「な、なまもの?」
「「それではごきげんよう〜!」」

 嵐が去った後、天地の君は手に文をもったままぼーぜんと立ちつくしていた。

「な、なんだったんだ今のは・・・。」




 疑問に首を傾けながらも、とりあえず文を開いた。



天地の君様へ                           

突然の文、驚かれていることと思います
実は天地の君様に折り入ってお話がございます
只今より学問所鷲羽ちゃん専用研究室までおいでください

津名魅の宮の親友 鷲羽の典侍



「津名魅様の親友?」

 先ほどの事態に圧倒されていた天地の君であったが、津名魅の宮の名を見た途端に気力を取り戻した。

(津名魅様に関係ある話かも・・・)

「ちょっと不安だけど行ってみるか。」

 するとまたしても唐突に、

「さっすが天地の君様!」
「そうこなくちゃ男じゃないよね!」
「「さあ、れっつごー!!」」

 と文から声がし、文は塵となって消えてしまった。
 再びぼーぜんとする天地の君であった。







 春の陽光が樹雷皇宮の庭園に降り注ぎ、小鳥の囀りが風を渡る。
 桜の季節はやや過ぎたとはいえ、春は盛り、ふと気まぐれに野へと足を運び、萌え出づる木々や草花の中に身を置くのも例えようもない楽しみである。ましてこの広い皇宮には、築山や池はもちろん、森や林とも見まがうばかりに樹々が繁り、少し中央から離れた殿へと向えば、春の楽しみ思いのままである。

 学問所は皇宮の内庭にある小さな池をはさんだ向こう側にある。
 天地の君が池の見えるところに差し掛かかり、ふと池の方を見やると向こう側の釣殿に一人の髪の長い女性が立って居る。顔を扇で隠し、なんとも慎ましやかな雰囲気の女性である。

 興味をそそられた天地の君は、

「その扇には大変見事な絵が描かれていますね。私にも見せてはくださいませんか。」

 と声をかけた。
 するとその女性は驚いた様子で、逃げるように建物の奥へ消えてしまった。

「あ・・・」

 天地の君は急いで廊下をわたり、女性が立って居た場所にたどり着いたが、もはや女性の姿は見あたらなかった。

「誰だったんだろう・・・」

 扇に月が美しく描かれていたのが印象的だった。






 一抹の不安を感じつつ、天地の君は学問所鷲羽ちゃん専用研究室までやってきた。
    エヘン!と咳払いの合図をし、声をかけた。

「鷲羽の典侍殿、おられますか?天地にございます。」
「・・・どうぞお入りくださいませ。」

 としずやかな声がかえってきた。

 天地の君がおずおずと部屋にはいると、中には十二、三ほどの歳の赤い髪の少女が立っていた。

(あの雨夜の折りの話はまんざら嘘ではなかったんだ)

 などと思い浮かべながらも、それ以外の噂にまでは考えが及んでいない天地の君。

「貴女が鷲羽殿ですか?」
「・・・はい、天地の君様。」
「私に話があるとか・・。どういったご用件でしょうか?」
「・・・津名魅の宮のことで少し・・・。」
「(どきぃ)な、なんでしょうか?」
「・・・まずはお掛け下さい・・・」

 と丸太を輪切りにして作ったような腰掛けをすすめた。

「は、はい」

 天地の君が腰をおろしたとたん、

ズバッ!ガキンガキン!!

 腰掛けから触手の様なものが飛び出し天地の君を雁字搦めにした!

「うわっ!?な、なんだっ?」

 完全に縛られ身動き一つできない。

「わ、鷲羽殿!こ、これはいったいなんのまねです?」
「・・・ふっふっふっふ、あーはっはっはっ!!!ひっかかったわね天地殿。」
「いったいどういうつもりなのです!」
「まあまあ、そう怒らないで。危害をくわえるつもりはないから安心していいわ。ただ、ちょっとこの天才の頼みを聞いてくれるだけでいいの。」
「頼み?」
「そう、でもそんな難しいことじゃないわ、とっても簡単な事よ。」
「・・・どんな頼みです?」
「まず、ひとつは・・・」
「(ゴクッ)ひとつは?」
「私のことは鷲羽ちゃんって呼んで!」

どたっ!!

「あら、縛られながらこけるなんてさすが天地殿、ただ者じゃないわね。」
「あ、あの〜鷲羽殿?」
「わ・しゅ・う・ちゃん!!!
「わ、鷲羽ちゃん」
「そう、それでいいの。」
「そ、そんなことのためにこんな大がかりな事したの?(^_^;)」
「いーえ、もうひとつお願いがあるの。」
「ど、どんなことです?」
「ちょーっと実験につきあってほしいのよねぇ。」
「実験?」
「そ、実験。」
「それはちょっと・・・(汗)」
「うふふ、鷲羽ちゃんのオ・ネ・ガ・イ」
「砂沙美ちゃんじゃなきゃやだ。」
「あんだってぇ!!!?」
「(うひぃ)な、なんでもないです。」
「じゃ、OKね!さっそく始めるわよ。ああ〜、天才の探求心がうずくわ!」
「あ、あの・・ちょっと待って・・」
「まずはこの実験からいってみようか!」
「ああ・・聞いてない(T_T)」

 かくして実験台となった天地の君であった。(合掌)

「天地殿には超豪華特別サービスつきよ!」
「え・・うわっ?お、大人になったぁ?」
「うふふふ・・・・」

 鷲羽の典侍の肩からはらりと衣が滑り落ちた・・・・・




──── 翌朝 二条邸 ────


「た、ただいま・・・」
「天地兄ちゃん!昨日はどこいってたの!?砂沙美心配し・・・きゃあ天地兄ちゃん!!ど、どうしたの?顔色悪いし、目に隈ができてるよ?それになんかやつれたみたい・・・」
「あ、あはは大丈夫、だ、よ・・・」

ドタン!!

「て、天地兄ちゃん!!しっかりしてー!!!」





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