あさき夢みし




      色は匂へど 散りぬるを    いろはにほへと
      我が世誰そ 常ならむ     ちりぬるをわか
      有為の奥山 今日こえて    よたれそつねな
      浅き夢見じ 酔ひもせず    らむうゐのおく
                     やまけうこえて
                     あさきゆめみし
                       ゑひもせす


 平安時代中期に作られたいろは歌。
 弘法大師の作という伝説がありますが、実際には違うようです。

 この歌はひらがな四十七文字を詠み込んで作られ、おおまかな意味は「うつくしいものは儚く、この世は絶え間なく変わってゆく。奥山(無常のこの世)を越えて、酔って浅い夢など見ないようにしよう」といったところでしょうか。なにぶん仏教の涅槃経を強く反映している歌なので正確には表し難いです。

 また、この歌の後ろを縦に読むと「咎なくて死す」と読めます。浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵』の「仮名手本」とはいろは四十七文字を指し、咎なくて死んでいった赤穂浪士四十七士にかけているそうです。

 ところで「あさきゆめみし」という言葉、最近は「はかなく浅い夢をみた」という意味に使われているようです。源氏物語を漫画化した大和和紀氏の『あさきゆめみし』の影響かもしれませんね。源氏物語の雰囲気を伝える、素晴らしい題だと思います。


 源氏物語の中で源氏は幾度となく出家したいと考えます。その度に女君たちとのほだしを断ち切れずとんでもないこと、と思いとどまります。紫の上もまた出家を望んでいましたが、源氏に許されず最期までその望みは叶いませんでした。紫の上亡き後、源氏は一年後に出家を決意します。そして源氏の物語は終わり、次の世代の宇治十帖へと移って行きます。源氏や紫の上は有為の奥山を越えることは出来たのでしょうか。






 ほとけも昔は人なりき   
 われらも終にはほとけなり 
 三身仏性 具せる身と   
 知らざりけるこそあはれなれ
                         『梁塵秘抄』







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