中世の物語


 中世に生まれた物語は大変たくさんあります。
 平安時代に作られたものを作り物語、歌物語などと呼び、鎌倉時代にこれらを模倣して作られたものを擬古物語などと呼んだりするようです。しかし擬古物語という呼び方は、作品に対して無礼であろうという気もします。

 平安時代の物語の代表的なものを挙げますと、『源氏物語』を筆頭に『落窪物語』、『宇津保物語』、『狭衣物語』、『堤中納言物語』など、これ以外にもまだまだたくさんあります。
 それこそ星の数ほどの物語があったらしいのですが、時代の流れに消えてしまった物語も少なくありません。その星々は、『源氏物語』という強い星の輝きに気圧され、あるいは飲み込まれていったとも言われます。

 さて、物語の書き出しは読者をひきつけるという意味でも、物語全体にとって大きな意味を持ちます。本文を知らなくとも、その冒頭を鑑賞しておくことはそれなりに意味のあることだと思います。そのいくつかを紹介してみましょう。




『伊勢物語』

「むかし、おとこ、うゐかぶりして、平城(なら)の京(みやこ)、春日の里にしるよしして、狩りに往(い)にけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みにけり」


 実在の人物、在原業平を主人公にしたわが国最初の歌物語です。和歌を中心にした短編集のかたちになっていて、「筒井筒」などが特に有名です。


『源氏物語』

「いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり」


 光源氏の物語。全五十四帖で三部にわけられます。第一部、第二部は光源氏が主人公、第三部は光源氏の子・薫(実子ではない)を主人公とし、宇治十帖とも呼ばれます。
 これ以前の物語の書き出しはたいてい「むかし〜」で始まっていたのですが、『源氏物語』の冒頭はこの形態から抜け出しています。


『狭衣物語』

「少年の春は、惜しめども止まらぬものなりければ、弥生の廿日(はつか)あまりにもなりぬ」


 狭衣中将の半生を描いた物語で、宇治十帖の影響を受けたとされています。
 白楽天の詩をふまえた有名な冒頭で、後の物語の書き出しに大きな影響を与えたといいます。


『有明の別』

「つれなくみえしわかれより、うきものに思ひはてにしありあけの空ばかりかはらぬ形見にて、まちいづる長月の暮は、ましていひしばかりの形見だに、虫の音とともによはりはてぬる心地するも、・・・」


 男装の姫君の物語。冒頭は壬生忠岑の歌


『苔の衣』

「逢うての恋も逢はぬ嘆きも、人の世にさまざま多かる中に、苔の衣(こけのころも)の御仲らひばかりあかぬ別れまで例なくあはれなることはなかりけり」


 肉親・親子の愛別離苦を描いた三代四十年余にわたる長編。小野小町と僧正遍昭のやりとりより。








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