ブレーメンのAC乗り

「それでは、今回の任務を伝える」
「せんせぇ〜、しつも〜ん」
 かなりバカにした口調でタンバリンが、ぴしっと挙手をした。
「なんだ?」
「バカ犬がまだ来てないんすけど、いいんですか〜?」
「ああ、あいつは風邪で欠席だ」
 R・B本人は気がついていないが、その口調は完全に教師と同じだった。
「風邪だぁ? バカは風邪ひかないっていうのに……」
「……お前に言われちゃお終いだな」
 聞かれるか聞かれないかぎりぎりの声でプッシーフットが突っ込みを入れる。
 幸運なことに、今回はその言葉はタンバリンには届かなかったようだ。
「きっとずる休みだな……」
「おい、それより仕事の説明をだな……」
 タンバリンはそんなことお構いなしにソルティに通信を試みた。
「……おっせーな。留守か?」
「だから、風邪ひいたって……」
 ぶつっと受話器の向こうで音がした。繋がった証拠だ。
「おーい、ソルティ〜?」
『うあぁ〜? だんばりん?』
 ひどい鼻声でソルティが返事をする。時々鼻水をすする音と、呼吸が苦しいのか喘ぎ声のようなものも聞こえてくる。
「っんだよ。マジで風邪か?」
『う゛〜……』
「ったく根性ねぇな。バカは風邪ひかないって、ありゃ嘘か」
『にぃぢゃん、風邪ひ〜てねぇ〜しぃ』
「俺に反論する元気はあるのか。ンじゃ平気だな。がんばれよ」
『お゛〜』
 そしてタンバリンは通信を終える。
「ほれ、言ったろう」
「ああ、まっ、元気そうで何よりだ」
 それに反論したのはプッシーフットだった。
「何を言っている。なんだかんだ言ってもソルティはまだ子供だぞ。もしもの事があったらどうする」
 その彼女らしからぬ発言とその態度に二人は驚く。
「ったって……んじゃ、おっさん……」
「何でも私に任せようとするな」
「だってよ、俺といたらソルティきっと安静にしてないぜ?」
「……あぁ、そうか」
 そのもっともらしい理由に素直に納得するR・B。
「だからといって、私も今回の任務では外れることは出来ないしな……」
 そこまで聞いてプッシーフットはため息をつく。
「まったく。わかったよ、私が行こう」
「あ、別にイヤってわけじゃないんだぞ?」
 一応フォローを入れるタンバリン。
「わかっているよ、それくらい。まぁ、こういうものは言い出しっぺがやると相場が決まっているしな」
 軽く笑ってみせるプッシーフット。
 そしてそのまま彼女はソルティ・ドッグの住処に向かった。
「意外だなぁ……」
「ああ……」
 残された二人は少しの間ぼ〜っとしていたが、しばらくして任務の話しをしなければならないことに気がつき、ミィーティングをつづけた。
「で、自分、何の用やねん。ないんならさっさと居ねや」
 眼鏡をかけた優男は訛を含んだ言葉で目の前の男に言った。
「用があるから呼んだんじゃねぇか。え?」
 こちらの男は見るからに人相の悪い、”いかにも“という男だった。
「僕、急いでんねん。ちゃっちゃと用件言いや」
「用件……なぁ。用件ってほどじゃあねぇんだが、ちぃとばかし金が……なぁ?」
「余ってるんか? そら、ええこっちゃ。僕にも分けて欲しいわ。ほな」
 男はきびすを返して去ろうとするその優男……サカキの肩を掴んだ。
「んだとこら、あ? てめ、俺が下手に出てりゃ……」
「うるさい……ねんて」
 サカキはその手を軽くひねり、すすっと滑るような動きをした。
 次の瞬間、男の視界が回転した。
「な? 静かにしたってや」
 サカキはそれだけ言うと、まだ何が起こったか判っていないその男を無視してさった。

「しっかし、物騒やな。僕の容姿が悪いんかな?」
 さっきの出来事を思い出しながら数日ぶりのサジェス・シティの街中を歩く。
「もっとこう……人相悪ぅって感じの目つきで……」
 ふざけて目を細めてみたり不機嫌そうな顔をしてみる。
「はぁ、ダメや。僕には悪人の素質ないんやな……」
 意味の分からないことで落胆するサカキ。
「……そう、その鉢植えので結構。ん? ああ、見舞いにな」
 丁度花屋の前を通り過ぎたところでその会話を耳にした。
「ダメやダメや。病人に鉢植えはそら失礼や」
 ついつい口を出してしまうサカキ。
「ん? お前はどこかで……まぁいい。それは本当か?」
「本当なんですよ〜、鉢植えって根があるじゃないですか。「根付く」=「病気が長引く」ってことで、送っちゃいけないんですよ〜」
 花屋も遅ればせながら解説を入れる。
「ほら、ねぇちゃんもこう言ってることやし」
「そうか……なら仕方がないな、この鉢植えは買ってしまったからお前にやろう」
 そして有無を言わさずその女性はサカキに花を差し出す。
「ちょっと! やる言われても!」
「私は別の花を買う。鉢植えなんて私では枯らしてしまいそうだ」
「そら、こっちも困りますがな!」
「困らなくていい。ありがたく受け取っておいてくれ」
 そしてその無愛想な女性は数本の花を買って去って行ってしまった。
「……なんか……パワフルな人やなぁ……」
 そう呟いてもやっぱり手には鉢植えがあるわけで……。
「これ、どないしような……」
 しばらくその鉢植えを持って歩いてみるが、こちらも遊びに来たわけではないのですぐに時間的に余裕が無くなる。
「……あー、もうええわ。そこのおねぇちゃん!」
 サカキは前方にいる25歳前後のライダースーツを着た女性をターゲットに選んだ。
「ほな、そういうことやから大事にしたって」
 鉢植えを渡したあとはもう、正に「すたこらさっさ」という調子でその場を去った。
 まいたことを確認して一息付く。
「ふぅ、これから仕事かいな。なんかもう、変な風に疲れたわ」
 だが、仕事が終わったあと、彼は思うことになる。『今日は散々な一日だ』と。
「しっかし、おっさんよ。何なんだ今回の任務?」
『だから説明したとおり、夜中に見慣れないACがうろつくからそいつの調査だ』
「その意味がわかんねぇよ。何で俺ら?」
 腑に落ちないという様子でタンバリンは言う。
『さあな。まぁ、実際の所うざったいだけだろうが』
「そんなもんかい」
 彼は不満丸出しで任務を続ける。
 さすがにR・Bも、自分の会社がやましいことをやっているから先手を打つだけだとは言えない。
「はぁ〜やくでってこい、不審人物ぅ〜」
 即興の歌を唄いながらうろうろするファルコン。実際このACの動きも不審だ。
 そして、そのレーダーに一機の機影が映った。
「お、出てきたよ。すげぇ、俺」
 そしてコンピュータでそのACの情報を得る。
「えっと……あれ? ”グリマルキン“の”呪法描“? どこかで……」
 思いだそうと記憶をたどっている間にその相手から通信が入る。
『”タンバリン“さんか。悪いな、理不尽やろけどこれも仕事やねん。撃破させてもらうで』
 その訛で思い出した。”こいつはソルティの知り合いだ“と。
「イヤだ。お前嫌い」
 そのやる気のなさそうな言い様と、その内容にサカキは言い返す。
『なんやと!? 自分、初対面の人間に向かって……』
 その反応にタンバリンは不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、俺様は何でもお見通しさ”グリマルキン“。いやさ! サカキさんよ!」
 本名を呼ばれてサカキはひるむ。
『なっ……』
「ふふっ。表の顔は研究員だが、裏の顔はレイヴンだな」
『なんでそんなことまで知ってんねん!』
「お前の”眼“が語っているよ。俺の爺様が探偵でな、その血が騒ぐのさ」
『初耳だな』
「事実だ」
 R・Bからの通信を受け流す。
「そうだな……最近、『いつの間にか知り合いを殺してないか怖い』のが悩みとみた!」
『そんなことまで……』
 調子に乗ってタンバリンは喋り続ける。
「見た目は25歳くらいだが実際は19歳くらいの根暗で無愛想なレイヴンが知り合いにいて、最近自分が人付き合いが悪いのかなぁ〜なんて思っちゃったり、仲間の研究所員に自分がレイヴンだとバレかけている気がするっ!!」
『ぐはっ……』
『……おい、タンバリン。何でそんなことまで……』
「はっはっは。カンだ。うちの爺様もこれで修羅場を切り抜けて来たらしい(本人談)」
 サカキに聞かれないように内緒の通信をする二人。
「まぁ、おっさん嘘下手だしな。変なこと喋らないでくれよ」
『あ、ああ』
 サカキはどうしようもなく混乱した状況になっている。
『くっ、なら僕の状況も察して大人しく撃破されて……』
「やらん」
『むかつくやっちゃな……』
「任せろ。まぁ、そんなわけで……」
『時間稼ぎは終了だ、サカキ君。君の目的を教えてもらおうか』
 いつの間にか呪法描の背後にいるスレイプニル。
『……ちっ、はめられたっちゅうことかい』
「御名答さん」
『しかし、さっきのは納得いかへんで! ネタばらしせんかい!』
「君の目的を教えてくれたら教えて上げよう」
 タンバリンはそれはもう小憎たらしく言う。
『……っ、企業秘密や!』
 そう言って、タンバリンにミサイルを発射してきた。
「っと。ちぇっ、ちょーっくらいじりすぎたか」
 モロに一撃くらいつついつもの口調でタンバリンは言う。
『ちょっとじゃないと思うがな』
 突っ込みを入れつつも攻撃を加えるR・B。
 しかし、その攻撃は大きなダメージには繋がらない。
『……タンバリン、どうやらあいてはそれなりの腕はあるようだ』
 その真剣な言葉にタンバリンは笑って答える。
「ああ、ソルティから話しは聞いてるって。俺達じゃちょっとやばいな」
『どうした! 怖じ気づいたんか!?』
 あっという間に距離を取ったサカキが通信を入れる。
「何言ってんだ。二対一で勝つ気か?」
『やれることをやれるだけや!』
 動きの遅いR・Bのスレイプニルから距離を取り、代わりにファルコンとの距離を縮める。
「R・B!!」
『なんだ?』
「……こりゃ負けたね」
 さっぱりと言い切り、その言葉とは関係なく張り切った様子で戦闘に向かうタンバリン。
『タンバリンッ!』
「苦情はあとで受け付けます」
『ちっ』
 R・Bはその言葉よりも、動きの遅い自機ACに苛立って舌打ちをした。
 呪法描にミサイルを撃ち込むタンバリンだが、やはりうまい具合にかわされる。
 地形と機動性をうまく利用したサカキの攻撃がタンバリンのファルコンを追いつめていく。
「くっ、今までの精神攻撃でダメージを受けてないとは……誤算だった!」
 他のメンバーが聞けば「当たり前だ」と突っ込みが返ってきそうだが、今はいない。
 物陰からミサイルが発射されると、その一撃でファルコンの戦闘モードは解除されてしまった。
『さあ、これで自分命握られたんと一緒やな……』
「まいったね。こりゃ」
『いい加減教えんかい、さっきのからくりを』
「あー、大したことじゃないし」
 サカキはそれを聞いて銃を向ける。
『なら仕方ないな。任務続行や』
「なんや、もう酔いつぶれたんかい。相変わらず弱いなぁ」

 どうしてこんな時に思い出すんやろか……。

「そら、シオザキさんが強すぎるんですよ」

 ああ、そういえばこれがシオザキさん見た最後の日やったっけ……。

「……強すぎる……か」
 シオザキは天井を仰いで呟く。
「強すぎるから……他人の大切なモンどんどん壊してまうんやろうな……」
「シオザキさん?」
「レイヴンやってると改めて感じるわ。……レイヴンだからやなくて、普通に生活しとってもわしは他人の大切なモン壊してまうんや……大切なモノを守るために」

 その日のシオザキさんはさほど酔っぱらってなかったように見えた。

「仕方ないんやないですか? この世の中、そうやないと生きてかれませんからね」
「……でもな、”本当に大切なモノ“と、”…………“は壊したらあかんで……」

 あれ? 今、なんて……。

「それは、レイヴンだからやなくて、”人として“や」

 僕は一体、何を忘れてるんやろう……。

「ま……何でもいいんだけどな……何でもない、ただそれだけの話しや……」

 それだけの……話し?
 ごうっ! という爆音と共に呪法描が吹き飛ばされる。
「なんや!?」
『何を忘れている。二対一だと言っただろう』
『今じゃ一対一だけどな』
 緊張感無く言うタンバリン。
『グリマルキン君。悪いがここは引いてくれないか。そろそろ都市のガードシステムも騒ぎに気がつくだろう』
 静かな口調で言うその言葉は、それでいて脅しのニュアンスも伝えていた。
「……そうやな。一応依頼の方は成功しとるし……。ボーナスが出ぇへんっちゅうのは惜しいけどな」
 依頼の内容は、このシティのACと戦闘を起こし、シティのガードを動かすこと。
 AC一機撃墜する事にボーナスがつくというものだった。
 レイヴンを生業としているサカキには理由なんてものはどうでもよかったので詮索はしていない。
「……なぁ、最後に教えてんか。僕の事、なんで知ってんねん」
『ああ、それは……』
『探偵様の企業秘密だ』
 R・Bの言葉をうまく遮るタンバリン。
「お前、マジにむかつくな……、鉛弾プレゼントしたろか?」
『冗談だって。ま、機会があれば教えてやるさ』
 彼はそういってイヤな笑いを浮かべる。
「個人的に、お前とはもう会いたくないわ。めっちゃ疲れる」
『よーし、今度一緒に仕事しよう!』
「もうええわ! ったく……達者でな」
 その、さりげない一言にタンバリンは爆笑した。
「な、何や」
『んーにゃ、何でもないわ。”達者でな“』
「あ、ああ」
 何故笑われたか判らずに、さらに不機嫌になってサカキは撤収した。
 その時サカキは彼らが”敵“であることをすっかり忘れて、ただ腹を立てていた。
 サカキは朝靄の街をどこへ行くと無く歩いている。
「……最悪の日やったな……」
 そして公園へたどり着き、ベンチにどっかりと腰を降ろす。
「ふぅ……」
 一息つくと、隣に老人が座った。
 老人はサカキの真横に鉢植えの花を置くと、さして時間もたっていないのに立ち上がった。
 そしてそのまま歩いていく。
「あ、爺さん、忘れモンやで!」
 老人は振り向く。
「あー……? どちら様かな?」
「いや、どちら様やなくて、忘れモンやって」
「……はて? 儂はなんでここにおるのかのう?」
 そんなことを訊ねられてもサカキには判らない。
 そして、老人はそのまま鉢植えを残して行ってしまった。
「……これ、どないしような……」
 サカキは鉢植えをじっと見つめた。
「……。……ま、そやな。たまには花を愛でるのもいいもんか……」
 そして、結局手元に返ってきてしまった鉢植えの花を抱えて、彼は帰路についた。
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おまけコーナー

「……ソルティ、医者に行くか」
「い、いや……ごほっ!」
「ほら、いわんこっちゃない……。なんだ、医者嫌いか?」
「だって……ほら、注射とかするじゃん」
「なんだ、痛いのがダメなのか……」
「ち、ちがうよ! だってほら、注射って、異物が僕の身体の中に入ってきて、それで汁をぴゅって出すんだよ!? 気持ち悪いじゃん!」
「何だ、セクハラか?」

 結局病院行き。
「ごほっ、う゛〜……」
「……お子さんですか?」
「こんなでかい子がいてたまるか」

 いざ注射。
「や、やだよ! 変なのが入ってくるよぉ! 中に出さないでぇ!!」
「……逆セクハラですか?」
「私に言うな」

 こうしてこの医者はプッシーフットの「いつか殺すやつリスト」で3ポイントゲットした。