ブレーメンのAC乗り

 奇妙な巡り合わせだな……。
 私はシャワーを浴びながら、肩に刻まれた傷跡をさすり小さく笑った。
 あの時私を助けてくれたあの少年が、今では私と一緒に仕事をしている。
 笑い続けながら、傷跡を強く握りしめる。
「……また……また私を助けてくれ……タンバリン……」
 痛みを感じながらうつむいて呟くと、シャワーの水滴とは別のものが目から流れた。
 一度少年によって鎖から解き放たれた男は、今はまた別の鎖に繋がっている……。
 下水道で私に向けられ放たれた弾丸は、急所をはずれ左肩をかすめた。
 それを放った少年は、気がつくと気絶していて、二度目は撃てない。
 ……追跡者に任せるか……。
 うまくこの少年を助けられればいいな……それだけを思っていた。
 間もなく追跡者二人が私の元へ辿り着く。
 しかし、その追跡者の言葉に私は面食らった。
「良かった。無事のようだ」
 私にはどういうことかわからなかった。
「社の方で下克上が起こりました。今の社長はあなたの情報を必要としている」
 しばらく私は自分が助かったのだと実感できないでいた。
「行きましょう」
「……この少年は?」
 私は肩を貸してもらい立ち上がり、その少年を見つめた。
「……被害者だよ。放って置いてもすぐに気がつくだろう」
 その時決心した。
 今の社長に従おう。二度と反逆者にならないように……と。そうすれば、彼のような目に遭うものも出ない。
「……まったく、全くもって無駄なことをしたな」
 そしてその場を立ち去った。
 私はいつものように社からの仕事を受け取った。
 その時、社長に呼び止められた。
「……この間のは、失敗したのか?」
 私は大人しく「はい」と答えた。
 失敗とは、D・E社の彼らを殺せなかったことだろう。
「……ふっ、無能ではないのにな」
 これにも「申し訳ありません」と答えるだけだった。
「まぁいい。……まぁいいさ」
 そして私は退室した。
 私はまたいつものように仕事を運ぶ。
 ……いつかタンバリンに言われた。”仕事を運ぶだけのロバ“だと。
 まったく、その通りだよ。
 ミーティングルームに入ると、珍しく全員がそろっている。
「明日は雨だな……」
 入室早々言うと、プッシーフットがこれに答える。
「ああ、天気予定では明日は雨だ」
 地下世界のここでは、天気は管理されている。……が、そう言う事じゃなくて。
「真面目に対応するな。今回の内容を説明する」
 ばさっと、資料を広げる。
 今回は試作MTの試験パイロットをやってもらうというものだ。
「うわっ、ダサッ」
 真っ先に資料を手に取ったソルティは見た瞬間に言った。
「うっわー、マジだわ。しかも四種類も……ここの社長って何考えてるんだ?」
 自分でも確認してみた。
 一機は鳥型、少々小型の犬型と猫型、そして一回り大きめの馬型。
 ……確かに。
「あ、この馬型ドリル付いてる」
「こっちの鳥型ってこの間の飛行型ACに似てねぇ?」
 二人は笑いながらそれぞれ分析している。
 ……はぁ。
 プッシーフットはその資料すら見ようとせず、腕組みをして半分眠って座っている。
「まぁ、そう言うな。これがお前達との最後の仕事なんだ」
 そう、さりげなく言ってみた。が、やはりソルティは食いついてくる。
「えー? なに? 契約期限まだ切れてないよね?」
「ああ。……いや、もうあの会社辞めようかと思ってな」
 思いきって言ってみた。
「なんでさ」
「にーちゃんがバカだから?」
「ちっげーだろ。……おっさん、あんたじゃ俺達をまとめられないとか、そう言う理由?」
 ……まぁ、確かにもう少しまとまりがあるチームを期待していたよ。
「違うさ、理由はお前達にはないから安心しろ」
 それでもソルティは騒ぎ立てる。
「やだよー! おっさん抜けてどうするんさ!!」
 どうするもこうするも……どうするんだろうな。
「平気だ。私が辞めても別の人材が派遣されるだろう」
「……そうじゃねぇだろ」
 タンバリンが睨み付けながら言う。
「俺達で……ブレーメンなんだろ?」
 ……。
 そこでようやくプッシーフットも喋り出す。
「ソルティ、タンバリン。人間いつか別れなきゃならないときが来るんだよ」
「だって……!」
 そう言って、私の方に近づいて来て肩を軽く叩く。
「ま、そう言うわけだ。私も一緒に辞めさせてもらおうか。私じゃこの二人のお守りはできないからな」
 そして小さな声で「ごくろうさん」と呟いた。
「お、おいプッシー……」
「なら僕も降りる〜。にーちゃんだけじゃつまんないもん」
 言うとタンバリンは突然ソルティにスリーパーホールドをかける。
「ぐえっ、に、にーちゃん、ギブ、ギブぅ!!」
「なーにがギブだ。ちゃんと”僕たちも“降りるって言えよ!」
 笑いながらまだ技をかけ続けている。
「それくらいにしてやれ。……ほれ、ソルティ堕ちてるぞ」
「げっ。根性ねぇな」
 やれやれ、こんな事態になるとはな……。
 ソルティが戻ってきたのを確認すると、プッシーは立ち上がる。
「じゃ、行くか」
「ああ」
 しかし、部屋を出た途端、私だけが別方向に向かう形になってしまった。
「あれ? おっさんションベン?」
「は? 演習場はこっちだぞ?」
 タンバリンは笑う。
「おいおい、ボケる歳じゃねぇだろう?」
「善は急げ〜!」
 ……ああ……。
「悪い。マジボケだ」
「どうしたのだ? 今は試験機のテストをしている時間じゃないのか?」
 その男は四人勢揃いの『ブレーメン』を前にして言った。
「そのことですが……」
「これが辞表だ」
 私の懐からさっさとプッシーフットが辞表を取り出した。
「ん? どういう事かな?」
「申し訳ありません」
 男は唸って封筒を開け、中の紙に目を通した。
「ふむ……で、他の三人は? まさかただの付き添いではあるまい?」
「御名答。俺達も辞めさせてもらうわ。悪いね」
 それだけ言って退室しようとした私たちを社長は呼び止める。
「待て、今抜けられては困るのだよ」
「ごめん。知ったこっちゃ無い」
 男は「ふぅ」とため息をついて一つのリモコンを取り出す。
「なら知ってもらおう」
 そして、古い画像が再生される。
 ……勇者特急マイトガイン?
「えー、なにこれ? アニメ?」
「大破壊前の磁気テープに残っていたものだ。とりあえずは大人しく見ろ」
 ……そして観賞会が始まった。
 プッシーフットは完全に眠っている。
 タンバリンは……寝ているのか起きてるのか際どい。器用な……。
 ソルティも、起きてはいるがろくに見てはいない。
 私も眠いよ……。
 そして、最終回の一歩手前で観賞会は終わった。
 メンバーは一応拍手をしているが、あくびをしたり、目をこすったりしながらだ。
 ……音楽会に来た生徒達か、お前らは。
「で?」
 タンバリンが質問する。
「なに!? わからんのか!?」
 悪いがわからない。
「ならばこの、絶対無敵ライジンオーを……」
「んじゃなくて、何が言いたいか言ってくれって」
「これを見ればわかる……」
 そう言ってビデオを取り替えに行こうとしたとき、悲劇は起こった。
「お、少年……ソルティ・ドッグだったか。とってくれるのか?」
 気がつくと、ビデオテープの山の前に笑顔のソルティがいた。……あの笑顔は!!
 しかし、気づくのが遅かった。ソルティは磁石を両手に取り出し、ポーズを取っている。
「なっ、何を!?」
 狼狽える社長。
「ふふふぅ〜……、ちょー電磁……すとーーーーーーむぅ!!!」
 あーあ、やっちまった。
 愕然と膝をつく社長。
「どうでもいいけど、あの磁石何処から出したんだろうな……」
「ほんと、どうでもいいな」
 多少気になるが……。
「……くっ、貴様ら、ゆるさん……ゆるさんぞ!!」
「連帯責任!?」
「くっ、おのれ学校……さしずめ奴は校長か!?」
 この状況でそういうことを言うか……。
「いささか予定は早まったが……貴様ら! 後悔してももう遅いぞ!」
 言って社長は隠し通路へ姿を消す。
「……まぁ、いいか。帰ろう」
 プッシーフットが退散しようとすると、社のビルが大きく揺れる。
「何事だ!?」
 揺れが収まると、今度は社に大きな影が落とされる。
 窓の外には巨大なMTが出現していた。
『さあ、貴様ら用に作ってやったMTも用意した。悪の美学! 今こそたたき込んでやる!!』
 私たち用のMT……? ああ、あのテスト機か。
「やだ」
「ダサイ」
「帰るぞ」
 ……こいつら、本当にあおるのが得意だな。
『何だと!? 秘密裏に加えさせた合体機構もあるのだぞ!?』
 ……。
「いらねぇ……」
「よけいダサイ」
「無視しろ」
 あーもう。
『貴様ら……生かしては帰さん!! 早く出てこい!!』
「どうする? かなり怒ってねぇ?」
「何でだろうね」
 素の状態を装う二人。
「……お前ら、あれだけあおっておいて」
「その通りだ」
 ……こいつは本当に素だ。
「お前もだ」
 仕方ない。いつまでもここにいるわけにもいかない。
「お前ら責任とって戦ってこい」
「え〜」
 そこへ、タンバリンが私の所へ歩み寄ってきて左肩を叩く。……痛いぞ。
「……おっさん。連帯責任」
「……バカどもが」
 仕方なく私も戦闘に参加することになった。
 ACに乗って演習場に行くと、やはりやる気満々の社長が待ちかまえていた。
「来たぜ〜、校長」
『エグゼブと呼んでもらおうか』
 彼の本名は、西脇賢吾……何処からその名前が出てきた。
『ふん、その程度のイモロボットでこのインペリアルに戦いを挑むとはな』
「でかいだけが能じゃない……ってね」
 本当にこの社長悪役に憧れているんだな……。
「なんか、ラグも例の社長の乗る巨大MTと戦ったって言ってたな……」
 あの社長も似たものなのか?
『貴様らに悪のすばらしさを見せてやる』
 言われてあからさまにイヤそうな顔をするタンバリンとソルティ。無理もないが。
 敵MTは上昇し、高位置からエネルギーキャノンを発射する。
 くっ、私の機体では回避は無理か。
 その間にソルティが割って入る。
「いつかのお返し〜」
「おっさんは攻撃に専念してくれ」
 ……まったく。頭が悪く育ってしまったな。
「了解した」
 プッシーは、指示を出すまでもなく巧みに攻撃をかわしながらダメージを与え続けている。
『ふん、貴様らに万に一つも勝ち目はない。いい加減に観念するのだな』
 言った彼は急降下しパンチを繰り出してくる。
 がずんとコンクリートがえぐれ、私の機体が吹き飛ぶ。
「っく、あの攻撃は喰らうな! シャレになってない!!」
「見てわかる」
 冷ややかに言うプッシーフット。
 着地した敵MTは隙だらけだった。その隙を使ってマッド・ドッグは喰らわせられるだけの攻撃を喰らわせる。
 が、敵は一向にひるまない。
『無駄だ。いい加減に観念しろと言っただろう』
 確かに。勝つための糸口が見つからない。
 何か……何かないか!?
 周りには試験用ACやMTがあるだけだ。
『ククッ、この私が相手をするまでもない……』
 言うと、試験場の試作AC数機が起動し始める。
「なるほど、”死者の魂“を制御しきれなかったどこぞのバカはあんたか」
 プッシーフットは一人頷く。
『ふん、”ファントム“は失敗作だったが、今では制御可能だ』
 要するに奴らは無人ACと言うことか……。
 見ると、奴らと最初に仕事をしたときの”ブレードガッシュ“に似たタイプや、この間の飛行タイプACも見られる。
「おー、まるで世界征服でもするかのような準備じゃん」
「んにゃ、”まるで“じゃないみてーよ。あの校長せんせーってば」
 聞いて社長は笑う。
『その通りだ。この無人AC部隊とお前達、そしてこのインペリアルを使ってこの世界を我がものとするつもりだったが……もはや貴様らは必要ない』
 「あーそうかい」と他人事のように答えるタンバリンは、空中用ACに戦いを挑む。
 次々に落とされるACの一つが、地上でブレードガッシュタイプと戦うプッシーフットの機体、ヴィーイルに当たりそうになった。
「あ、わりぃプッシー、無事か?」
「無事だ」
 ……よし、これか!
「良くやったタンバリン!」
「……私を殺したいのか?」
「最後まで聞け。いいか……」
 作戦を伝えてやると、タンバリンは笑い出す。
「あっははは。おっさん、いいぜぇ、それ!」
「人のこと言えないな。R・B」
「ああ、私にまでバカが感染したらしい」
 言って散開する。
『無駄なあがきを……』
 タンバリンはAC隊を無視してインペリアルに攻撃を仕掛ける。
 攻撃の死角に入り、そのMTの肩に乗る。
『何を……!?』
「さささ、無人君かもーん」
 タンバリンのファルコンに引きつけられる空中用AC。
「あっはははははははははぁっ!!」
 そのAC群にソルティ・ドッグはキャノン砲を乱射する。
『!?』
 撃ち落とされたACはまるで隕石のようにインペリアルにぶつかる。
「よしっ! もう一息だ!!」
「校長! 死なないうちに降参してくれよ!」
 社長は焦りの色を見せている。
 そうだな。ここで命を落としても仕方がない……。
「……死にたかないだろう? 社長さん」
 それを聞いて社長は笑い出す。
『死ぬ? 死なんよ!! 死ぬのは貴様らだ!!』
 所々装甲の剥がれているのも気にせずに、地上のブレードガッシュ達を蹴り飛ばす。
「っ!? くっ、真似しやがった!!」
 蹴り飛ばされたACがこちらのACのすぐ近くをかすめる。
『っはははは! 死ねぇ!!』
 こちらも攻撃を続けるが、相手の攻撃もまた激しい。
 そんな中、敵MTの腕が攻撃に絶えきれず千切れ落ちる。
『私は……私の悪が……力が……!!!』
 ……この男……取り憑かれているよ……。
 もはやいつ崩れ落ちてもおかしくないその機体の中で、妄執に取り憑かれた男は今なお叫び続けている。
「……帰るぞ」
 私は一言そういった。
『私は……私はまだ……!!』
 機体が激しく軋む。そして……。
ぐずんっ!!
 大きな音を立てて崩れ落ちた。
 落ちた先には私が乗るはずだったMTがあり、そのドリルがコックピットに突き刺さっていた。
『だから……ドリルは取れと……いっ……たの……だ』
「言ったか?」
「さあ?」
『最後に……言うと……決めていた言葉……』
 そしてそこで通信は切れた。
 どうしようもなく無意味で、無駄な死に様だった。

「社長結局死んじゃったね。どうするんだろう。この会社」
「ああ、スケルツォが面倒見るって」
「いつの間に……」
「ほらそこに。……手振ってるし」
 何しに来たんだか……。
 彼の手にはビデオカメラが握られている。
『いやー、その手の人に売りつけようかと。研究者とか、マニアとか。さ、退散しますか』
 そして言ったとおり、そそくさと退散した。
「……なぁ、これからどうするんだ?」
 タンバリンが、誰に言うとなく言った。
「私は帰るよ。ラグが待っているんでね」
「やっぱそうか〜」
 ソルティは落胆して言った。
「お前は?」
「ん〜……わっかんないや」
 「あはは」と脳天気に笑うソルティ。
「でも、まぁ……やっぱりレイヴンやってると思うよ〜」
「俺もそんな気がする。……おっさんは?」
 私は……。
「やっぱりレイヴン? だったら俺らと……」
 ……。
「いや、私は遠慮するよ。私は……後で考える」
 私はようやく鎖を断ち切った。自らの手で……あの少年からようやく私は一人立ちをしたのだ……。
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