ある日突然、“一番嫌いな奴”から電話があった――。
最初はびっくりしたけど、理由を考えはじめたらすぐに答えが出た。アイツの元からあの女が去って、大体三ヶ月。――寂しくなったんだ。
「――で、私に慰めてもらいたいってわけ? サイテー」
アイツはそう言われても包み隠さず自分の心境を語る。
バカ正直め。私がそれでどれだけ苦しんでいるか――いや、そこら辺は考えるのはやめよう。自分が辛くなる。
『いやー、忘れようという努力はしております。はい。してるんだけどなぁ……』
“忘れようと思えば思うほど、想いが強くなるのは病気なんだろうか?”
そんなことはないよ。私だって同じだから。または、私も病気か、ね。
「ま、そんなもんでしょう。こんな話ししてるけどさぁ、ソルティ君はいないの?」
雑談を混ぜたい。このまま話しをしていると、私はあの事を自覚しなくちゃいけなくなるから。
『あー、たぶん今頃はどっかのお姉さんのお世話になってるはず』
それは……どういうこと?
『あいつさぁ、自分が“カワイイ”って自覚しやがって……。すげぇよ? 聞きたい?』
「聞きたくない」
できれば、電話もここで切りたい。これ以上私を惑わすのはやめて欲しい。
『あっそう? んでさ、思うんだよ。「あの頃は幸せだったなー」って』
アンタ主観の話しなんてもう聞きたくない。
『俺さ、兄貴と姉貴一匹ずつ居るんだけど……ブレーメンってそれ+弟だったんだよなぁ……』
「あんた、兄姉居たんだ」
きっと、仲の良い兄姉なんだろうなぁ……。
ああ、なるほど。コイツは周りに人が居るのが当たり前なんだ、きっと。一人で居る時間なんて、人生の中で数えるほどでしかなくて、だから一人で居る時間を勿体なく感じて――って思考が暴走する私が大嫌い。
もう喋るな、貴様。喋ると色々考えちゃう。何気ない言葉から想像して、あなたを知ってるつもりになっちゃう。そんな私は、大嫌いだから、頼むから、やめて……。
『うむ、実に居心地良かったと今になって実感。ま、面と向かってンな事は言わねぇけど』
言えるわけない。本心なんて……。
言ってしまえば、あなたはもう連絡よこさない。
言ってしまえば、私は二度と苦しまなくなる。
言ってしまえば楽になるのに、それを想像すると苦しい。
――アンビバレンツだ。
二律背反する二つの気持ちが同居してる。
って、こんなモンをアンビバレンツだなんて言ったら程度が低すぎてアレだけど……。
「あの頃に、戻りたい?」
あの頃は居心地が良かった。こいつは私の敵で、あの女も私の敵で、こっちには仲間がいて、あいつらにも仲間が居て……戦えた。
あの頃に戻れるなら、どんなに良いだろう。
でも、こいつは天の邪鬼だ。
『戻りたくねぇなぁ……』
――ほらね、やっぱりだ。
この天の邪鬼小僧は絶対私と同じ答えを出さない。そして――
『戻ったら、もう一度同じ事を繰り返すんだぜ? 全部。やり直しっつったってたかが知れてるし。第一過去に戻るより、前に進んで納得した方が絶対いい』
それ以上の答えを出して私を納得させる。
こう言うところが嫌いだ。弱ってるコイツを誘導して私にもたれ掛からせようとしても、絶対甘えてこない。
そのくせ、自分からは甘えてくる。
『だから……忘れてぇんだよなぁ……』
弱さを見せて、甘えて……くっそう、母性本能くすぐりやがって。
――私が、忘れさせてあげようか?
クサすぎ。言わないし、言えないし、言いたくもないし。
「ま、適当に女見つけて楽しくやりなよ」
突き放す。だからコイツもそれ以上甘えない。
『だよなぁ。あーくそう、早く前に進みてぇ……』
前に進むためには、今の自分をしっかりと確認しなきゃならない。過去から今に進んで、そして更に前へ――。
コイツは後ろに戻ることを考えない。まず頭にない。だから大嫌い。
再確認。
私はコイツが大嫌いだ。
確認完了。よし。言える。
「“進みたい”? 馬鹿。希望言ってどうすんの。“進む”んでしょ? あなたの足は誰の足? あなたのでしょ?」
私はアイツが嫌い。だから傷つけるようなこともガンガン言ってよし。
「主張と言動伴ってないぞ? 今からそっち行って頭一発殴ってやろうか?」
……私も甘いなぁ。“今からそっち行って”だって。私が会いたいだけじゃん。
『ありがてぇ……。ついでにメシも頼む。餓えてんだ……』
無理して茶化すな、バカ。
「……本気で行くよ?」
『おう……』
弱さを見せないでよ。
「本気だよ?」
『来なくていいよ』
OK。
「よし、行ってあげる」
そして有無を言わせず電話を切る。
バカ野郎だなぁ、私。あ、野郎じゃなくて女郎か。
この時間に店開いてないだろうから適当に食材見繕っていこうか……。
まずいよなぁ……。
大嫌いだから好きだなんて、不毛すぎ――。
<戻る>