![]() ○―― アスタリカだけではない。勇、頼茂、凛子が、藍兎によって召集され、そして彼女の言葉を聞いる。 「さて、それでは。早速“どうすれば天海先輩は紳士とイチャイチャできるか”会議を始めましょう」 勢いよく「オーッ」と拳を振り上げたのは勇、頼茂の四年生二人組みだけ。凛子は端のほうで興味なさげな様子だ。それを見て実に平和なことだとアスタリカは肩を落とした。 ○―― そしてアリカ以外がみんなバカになる。 「もういっそ、天海さんを後ろから蹴り飛ばして紳士に抱きつかせるのはどうでしょうか!? 藤実は超お勧めします!」 「生まれ変わるしかなかろうかとも思うがね」 「個人的にはエロ仕掛けがいいなぁ」 最後の頼茂の言葉に全員が正気に戻る。 「……世話人……?」 「藤実はがっかりです。ええ、なんかもう、意見には賛成しますが、あなたにはガッカリです」 凛子に至っては、鼻で笑うだけだ。ちょっと涙目になる頼茂を尻目に、アリカが「会議はいいの?」と促した。 「そうだったね。世話人なんぞにかまっている暇はないのだった」 ○―― 「実はすでに紳士から天海さんへ正式に告白はされているのだよ。付き合ってください、と。そこであのヘタレ、なんと答えたと思う?」 続きを待つ皆に、藍兎は告げた。 「“返答は、クリスマスにしましょう”と、そう言ったのだそうだ」 ○―― 「全く怪物足り得ないッ! “アスタリカ”なんてマイナーもいいところの神、生まれるはずも無いのよッ」 “生まれるはずも無い”。その一言に、胸が痛む。だから返す。 「だけどアタシは――生まれたわ!」 だから前へと踏み込んだ。 「アタシは魂を喰らう神だけど――だからこそ、生まれたモノは否定しない! この子達は【The_Monster】! 実在できなかった怪物の概念が、流体という媒体を得て生まれたモノよ!」 両腕を振れば、闇が集まり、その中から闇の犬が現れた。凛子の使役する【闇】、ナイトだ。 ○―― 「いや。流体人はまた別だ。アレは人間や地球環境に擬態し、情報を糧として生きている。また、流体は触れた分子・原子を流体化して増えている。もっとも、根本的な分子原子の構造は変わらないから……そうだな、そのレベルで寄生されたと考えるべきなのか……。よく僕らが表現するのは、鉄が磁化されるときと同じような現象で、その磁力が情報を持ち、意志を持っていると……」 そこまで言って、藍兎は歩を止めた。本館棟まではあと数歩。止めた理由は、アリカが歩を止めたからだ。 「……つまり、話に付いていけない、ということかね? 軍神殿?」 「ふふっ、神様だからねっ。ちょっと理解に時間をかけているだけよ」 「ははは、仕方ないよ。脳みそ筋肉の軍神様なんだから」 なんだとこのぅ、と左手に力を込めたが、藍兎はそれほど痛がらずに笑いながらグラグラ揺れる。 ○―― 一歩“亜噪域”に入っただけなのに。すぐに振り返り、戻ったはずなのに。 「出口は……どこよ」 辺りには何もない。いつもはうるさい小鬼もいない。あるのは耳障りなセミの鳴き声と、引きずる左手に絡みつく砂の感触だけだ。 「あーもうっ!」 仕方ないので別の出口を探そうとまた方向転換をした。すると。 「ッ!?」 足元が抜けた。 眼下には抜けるような青空があり、頭上には蒼い海が広がっている。 「うわーっ、なんだこれ。平衡感覚が……うわー」 ○―― 中央広場の片隅、何事もない至って平凡な夜の中、アスタリカ=オニールと田中藍兎はモゾモゾ動く黒い塊を眺めていた。 「なんというか……コレホントにリクミ?」 「うむ、なんかここまでコレが効くとは思ってなかったよ。一撃死系のアイテムだね、コレ。強いて言えば天海さんじゃなくて……チャバネ?」 ぴくり、と黒い塊が動いて跳ね起きた。 「誰がチャバネよっ! 私の艶やかな黒髪をあんなのと一緒にしないでッ」 ○―― 「何が楽しかったのかこの女、幼少の頃同年代の友人にカンチョーしまくってね。田中一族には鴉天狗の羽を隠す必要がないからね。田中家と流体人の代表が話し合う会議などに一緒に来ては、その無駄なスピードで田中一党一網打尽だよ。そして付いたあだ名が“伝説の大天狗様”。鴉天狗なのにね。笑ってしまうよ、わははは――」 言っているさなか、藍兎の背後、黒い塊の中で真っ赤な瞳がルビーのように煌いた。 瞬間。 どすり、という音と共に、藍兎が「ぬふぅ」と悲鳴を挙げて、元から長い身体がさらに伸びた。そして直後、崩れ落ちるように尻だけ突き出して地面に伏す。 「け、結婚してぇ……」 「ふんっ、私の目の前に尻をチラ付かせるのが悪いのよ」 学ランも地に落ち、完全復活した陸美は胸を張って鼻で笑う。それを見たアリカは大きく頷いた。 「それだッ!」 ○―― 「アスタリカ=オニールなんぞ、この夢の世界にしか存在しない、誰かの見ている夢なのかも知れないのだよ?」 ○―― 「やっぱり私はダメなんだ。どんなに頑張っても。人間じゃないから……ダメなんだ」 陸美の周りで小鬼が踊る。ゲラゲラゲラと、大笑いする。 それを、冷めた目でアリカは見つめる。 そんなことで絶望するなど、全く弱い生物だと、そう思う。だから告げる。 「アンタにはアタシの正体教えてあげる」 ○―― 左の肩に、鬼の筒を突き込んだ。 「ホントッ! 放って置けばよかったわ!! あーっ! 失敗したッ!」 長い腕が鬼の肉に食われ、肉から鬼の牙が生まれ。そして陸美を噛み砕いていく。 砕けた身体は空に舞って、しかし小鬼に残らず食われる。その口の端から、青白い月光のような光の欠片だけがこぼれて消える。 陸美は身体が砕け、食われているのにもかかわらず微笑んで。 「いいえ、それは素敵な失敗だわ。ありがとう、アスタリカ。私のこと、構ってくれて」 恐怖も、悲鳴もなく。ほどなく陸美は喰われて尽きた。魂が一つ分、身体に満ちる。 ○―― ヨモギを頼茂が撃退して、その砲口がアリカに向いた。 「お前も怪物の仲間かッ」 「うっさい! 黙ってなさい泣虫ッ!」 ひいっ、と涙を浮かべて頼茂は退いた。 ○―― 陸美はアリカに気付いて無言で首を横に振る。ふるふると震える手を転がったまま頭上にかざし、小さな声で。 「お……思い出した……。し、しんしん……私のこと……あー、もう嬉しすぎて死ぬーッ!」 「……死んでなさいよ。アンタホント死んでなさいよ……」 噪研の研究室から出て、その場にがっくりとアリカもへたり込んだ。 そうしてまた。 「……失礼したわね、アスタリカ。見苦しい所を見せてしまって」 扉が開いて、少しほこりにまみれて服にもシワが付いた陸美が、何食わぬ顔で出てきた。 ホント、その通りよ。と口に出そうとするが、それだけの気力もない。 もうどうでもいいやと思った。陸美はダメだけど大丈夫だと、そう思う。 ○―― そしてまた間が空き、少し慌しく服がばたつく音がした。 「あ、はははは。凄く恥ずかしいですね、これ。なんか……こんなお返事ですみません」 「いえ、俺も……あなたを、幸せにしたいです」 ○―― 「ギャーッ!! 紳士ーッ!!」 その悲鳴に研究室へ消えた紳士も慌てた様子で戻ってくる。 「どっどうしましたっ!?」 ヨモギはすでに、どろんと正体をあらわにして、尻を突き出して倒れていた。 「こ、これはいったい……むちむちさんっ、お怪我はありませんかっ」 言って陸美を胸に抱く。同時、陸美は。 「し、死ぬ……」 気絶する。 ○―― 「で。妄想ですか。天海さんはどんな妄想を? “是非、話してください”」 にっこり笑って凛子はチョーカーを外した。その手段の選ばなさと迷いのなさは、凛子らしいとアリカは頷く。 「え、えっと……そっと手を繋いで、ち、ちゅーして……で、彼が我慢しきれなくて……とか」 アリカはにやけて顔をそむける。 「わ、悪かったわねぇ! 悪かったわねぇ! あーっもうっ、なんかもう、死にそう。ダメよあなたたち、私の事からかわないでよ」 ○―― 「及ばずながら、立川ラブ☆マスター頼茂、手伝いましょう」 一緒に現れたそんな頼茂に、凛子はチョーカーをつけながら「“バカ”」と呟く。それを聞いて皆一様にバカになる。 「第一案としてとりあえずアクシデントでおっぱいでも揉ませるかっ! エロアクシデンツ!」 「世話人は最低ですが、案は最高ですねッ!!」 「ででででででできるわけないでしょーっ!」 勢いで返事をして、止まり、陸美はちょっとだけスーツの上から胸を触って。 「む、無理ッ!」 「何を言うか! おっぱいの一つも犠牲にしないで何の恋愛か!」 藍兎に怒られた。 ○―― 「というかっ! あんたらは私をどうしたいの!?」 陸美がキレ気味に問うので、皆は胸に手を当てて答える。 「幸せに、したいです」 「うーるーさーいーっ!!」 やぼーのホームページへ戻る |