part 8

Climacteric Disturbance

HRT


  
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 次に更年期障害の治療の中心である女性ホルモン補充療法、Hormone Replacement Therapy HRTについて説明しましょう。

 HRTの第一の適応は更年期症状(ホットフラッシュ、発汗などの血管運動神経障害様症状、腟萎縮などの泌尿生殖器萎縮症状など)です。更年期症状に対するHRTの効果は明らかなので、治療前に禁忌でないことを確認し、また治療開始後には、その効果を判定するとともに、乳がんやその他の異常所見の有無をチェックして安全性を確認しながら治療の継続・中止を判断します。施行にあたっては必要最少量を必要最短期間とするのが原則です。

 HRT女性ホルモン補充療法は、欠乏している女性ホルモン(エストロゲン)を補い、内分泌環境を安定させる目的で行います。
 HRTは子宮がある場合と子宮が無い場合とで、投薬するホルモンの数が異なります。
 まず、子宮がある場合は、
 おおよそご覧のような3通りの投薬方法があります。
いずれの場合も、必ず黄色のバーのエストロゲンと赤のバーのプロゲスチンを併用します。

 エストロゲンは卵胞ホルモンのことで、自然に月経のある方では増減はするものの常時、体内に存在します。薬の名前は、プレマリン、エストラダームなどで、継続して使用します。

 プロゲステロン(黄体ホルモン)自然に月経のある方では、排卵した後のみに黄体から分泌されるホルモンです。このプロゲステロンの増減により消退出血つまり月経が発来します。プロゲスチンはプロゲステロン(黄体ホルモン)の類似化合物のことです。1と2の投与方法は自然に近いプロゲスチンの投与方法となり、多くの場合、内服終了後に消退出血が発来します。3では、エストロゲンと同じようにプロゲスチンを継続して投与しますので、プロゲスチンの増減がなくなり多くの場合、出血がありません。薬の名前はプロベラ、ノアルテンなどです。

 最近、米国などで天然型のプロゲステロンの使用を勧めているとこもろあります。天然型プロゲステロンはプロゲスチンと比較して副作用がほとんどないことが特徴です。日本では入手できないので個人輸入で入手する方法があります。

 次に手術などで子宮を摘出して子宮が無い場合ですが、
この場合、子宮がある場合と異なり、エストロゲンの継続投与のみとなります。プロゲスチンを投与する目的は、子宮癌の一つである子宮内膜癌を予防することにあるため子宮が無い場合は、プロゲスチンを投与する必要性がなくなります。

 天然型プロゲステロンは、それ自体に更年期症状を緩和させる効果があると考えられています。天然型プロゲステロンであれば併用するのがよいかと思います。

 子宮体癌は、10万人当たり約250人発生しますが、エストロゲンのみ投与している場合、明らかに子宮体癌が増加します。これに対してエストロゲンにプロゲステロン(プロゲスチン)を併用している場合、むしろ子宮体癌を著明に減少させることが解ります。このデータに基づいて子宮がある場合は、子宮体癌の予防目的にプロゲステロン(プロゲスチン)を併用します。
 女性ホルモン補充療法は、更年期の女性に大きな福音となりました。欧米では30年以上の歴史があり、閉経後の女性のおおよそ50%がHRTをしています。
 しかし、いいことばかりではありません。
 HRTの問題点として不正出血、子宮癌、乳癌、肝機能異常、血栓症、高血圧などがあります。
 性器出血は女性ホルモンが子宮内膜に作用することで起こるため避けることが出来ません。前述のように内服方法を工夫することでコントロール可能です。
 子宮癌は、前述のようにプロゲステロン(プロゲスチン)の併用によりむしろ減少させることが出来ます
 乳癌は、エストロゲン単独の場合、リスクはほぼ無いと言えますが、プロゲスチン併用の場合、HRTをしていない人と比較して乳癌になる確率(相対危険率)が1.3から17倍となります。しかし、乳癌検診を徹底して行い、早期発見に努めます。
 肝機能異常は、薬剤性のもので個人差により生じます。内服の中止により改善します。
 通常では血栓症を起こすことはありませんが、もともと血栓症を起こしやすい体質や病気を持っている方の場合、HRTは禁忌です。
 高血圧とHRTの関係は、一般的にHRTを開始すると血圧は低下し、これまで降圧剤を内服していた方が必要としない状態にまで改善することもあります。しかし、逆に、HRTにより血圧が上昇することもあります。従って、高血圧の方のHRTは、個々に対応するしかありません。

 肥満、喫煙は、もともと血栓症、子宮癌、乳癌、高血圧の危険因子です。HRTを行うときこれらの因子も考慮にいれます。

HRTよる治療のまとめ
更年期障害の治療
子宮があるとき
 エストロゲン・プロゲスチン併用(HRT)
 血栓症・脳梗塞・冠動脈疾患・乳癌のriskがあるときHRTを避ける
 他にrisk factor がないとき、5年以内を目処に使用

子宮がないとき
 エストロゲン単独(ERT)
 血栓症・脳梗塞のriskがあるときERTを避ける
 他にrisk factor がないとき、5年以内を目処に使用

骨粗鬆症の治療・予防
50歳未満 卵巣機能不全がないとき ビスフォネート剤
50歳未満 早発閉経と卵巣機能不全または更年期障害 HRTまたはERT
50歳以降 更年期障害があるときHRTまたはERT
50歳以降 更年期障害ないとき ラロキシフェン
65歳以降 ビスフォネート
すべての世代においてカルシウムを併用

最近のデータから

HRTのリスク

 長期使用についてメリットやデメリットに関するデータは、両方出ています。しかし、デメリットの結論を論じるデータの方が多くなっているように思います。
 外来ではこのような状況を患者に説明し、基本的に5年以内の使用を勧めています。しかし、そのような説明に関わらず、長期間の使用を望まれる方も多いです。

 長期使用によるデメリットで取りざたされるのは血栓症・脳卒中・心臓疾患・乳癌です。ホルモン補充療法以外のリスク因子たとえば喫煙・肥満・過労・偏食のある方は、ホルモン補充療法を使用するよりも脳卒中・心臓疾患・乳癌のリスクが遙かに高くなります。従ってこのよな別のハイリスク因子がある方は、ホルモン補充療法の長期使用を控えるようにしています。

 ハイリスク因子がなければ、ホルモン補充療法のデメリットは、さほど心配しないでよいと考えていますので、望まれる方には長期使用しています。

 私の外来では、HRTをしている方には、更年期手帳を差し上げています。
 手帳には簡単ですが更年期の説明文章を掲載しています。
 更年期手帳の最大の目的は、HRTの副作用の管理にあります。HRTの内服状況と出血状況を記録してもらい、不正出血を管理します。また、血液検査により肝機能、コレステロール、止血機能などをチェックします。子宮癌検査、乳癌検査、および骨塩量を定期的に検査します。
 これらにより、安心してHRTを続けていただけると考えています。
 これは、私の更年期外来の治療成績をグラフにしたものです。前述しました更年期スコアをレーダー状にならべ、治療を必要とする症状の割合を示しています。
 たとえば、1の顔のほてりを訴えた方が、約80%いたことを示しており、治療後赤の様に、顔のほてりを訴えるかたがほぼ0%になったことが解ります。
 また、6の不眠を訴える方は約90%ありましたが、治療により約10%程度に不眠を訴える方が減少します。
 こうしてみると初診時に黄色の面積の症状を呈していた方が、赤の面積の症状に著明に軽減したことがよくわかります。
 これで更年期障害についての話をおわります。
 とこで皆さん、QOLという言葉をご存じですか。
 Quality of Life、生活の質、質から見た生活水準のことをいいます。心身共に健康である状態は、QOLが高い、生活水準が質的に高いとう表現をします。また逆に、病気などはQOLを低下させる原因となります。更年期障害や女性ホルモン低下による身体的な変化は、女性にとってQOL低下の大きな要因となります。日本人女性は、外国の女性と比べてQOLの低下に対して我慢強いと言われます。しかし、少なくとも更年期に訪れるQOLの低下は、更年期外来を受診するだけで容易に改善できます。もはや、我慢することはないのです。皆さんは、すでにQOL改善の方法を身近に手に入れているのです。
 産婦人科は、更年期に限らず、すべての世代の女性の健康を心身共に守ること使命としています。
 QOLが低下しているなと感じたら気軽に我々の外来を訪問して下さい。
 我々は、きっと皆さんのお力になれると信じています。
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