Hot Fight


BY ゆうきゆうき


 オレは強くなりたかった。誰にも負けないように、誰よりも強く。

 オレの家には小さい頃からいつも胡散臭い連中が出入りしていた。一見紳士面してるその連中は、時々にこやかに笑いながらオレに小遣いをくれたものだ。最初は無邪気に受け取っていた連中から渡されるその金が実は賄賂に等しいものだと気付いたのは一体いつの頃だったろう。薄汚い武器商人達は金でオレの機嫌を取り、親父に取り入るためにオレを利用しようとしていたのだ。
 オレの家は軍事産業で儲けた財閥だ。膨大な富に物を言わせ、表面をどんなに綺麗に取り繕ったって、やっていることは死の商人と何等変わらない。そんな家業を継ぐのが嫌で反発しようとするオレを親父はことある事に押さえつけた。
「リオン、もう少し自覚を持て。お前はこのラファール家の跡取りなんだぞ」
 オレを諭すように繰り返される言葉には反吐が出る。こんな血塗られた家を継がねばならないオレの苦悩なんて、きっと親父の麻痺した感覚では理解できないのだろう。
「ちくしょう。オレは・・・こんな家・・・」
 けれど、その頃のオレには親父に対抗できる強さがなかった。全てを振り切る力なんてなかったし、強引にオレをねじふせる親父に逆らう力さえなかった・・・。

 キラリと刃が光る。オレはその輝きを見つめながらナイフを磨いていた。
 幼い頃から集めていたナイフの刃を磨いていると時々物騒な気持ちになる。このままこの刃を親父の胸に突き立てたらどんなにスッとするだろうか・・・と。
 けれど、それでは親父のやっていることと何も変わらない。人を傷付け、殺すための武器を売っている親父。オレが集めているナイフは決してそんな武器ではない。
 ナイフは武器と言うよりは道具であるべきなのだ。木を削り何かを作り出す。密林を切り開き道を作る。木の実をもいで食料を生み出す。ナイフは人を殺すためのものではなく、人を生かすための道具だとオレは信じている。だからこそ、オレはナイフを集めているのだ。飾り棚一杯に集めたナイフはオレの宝物であり、親父への反抗心の結晶だった。
「オレは親父のようにはならない」
 オレはナイフの刃に映る自分の顔に向かって小さく呟く。ナイフの刃の銀色のきらめきの中で親父と同じ色をしたオレの青い瞳がキラリと輝いた。
「オレは親父のようにはならない・・・」
 それは静かな、けれど確かな誓いだった。オレを思い通りの人間に仕立て上げようと英才教育を強制する親父に対抗する強さが・・・ナイフのような鋭さが欲しい。そしてオレはできるかぎり誰も傷付けずにその強さを手に入れたかった。

 オレに蟷螂拳の手ほどきをしたのは、厳しい中国人の教官だった。それは親父に強制されていた英才教育の一環だった。
「リオン坊ちゃんは筋が良い。教えがいがありますよ」
 気にくわない坊ちゃん扱い。言葉だけは柔らかくても鬼のように厳しい教官。毎日徹底的に叩きのめされ、それこそふらふらになるまで鍛えあげられた。
「よし!もう一本!」
 最初は嫌々ながら習っていた蟷螂拳が面白くなってきたのは、ある日、その教官との練習試合で一本取れてからのことだ。
「まだまだ」
 調子に乗ったオレはすぐに教官に反撃を食らい、いつものように地面に這いつくばる結果になったが、不思議なくらいに清々しい気持ちになった。
「リオン坊ちゃんがもっと練習を積めば、私などよりずっとずっと強くなりますよ」
 機嫌取りのお世辞かと思っていた彼の言葉はあながち嘘でもなかったらしい。教官の腕は抜群だったから、真剣味を増した訓練の中でオレは彼から蟷螂拳の技を存分に吸収しどんどん強くなっていった。
 この強さはきっとオレの力になる。それに気付いた時、胸が躍った。この蟷螂拳で誰よりも強くなろうと思い、目標を得たオレは実際どんどん強くなった。
「リオン坊ちゃん…参りました。本当に強くなりましたねぇ」
 教官が2人がかりでかかってきても負けないくらいオレは強くなった。けれど、もっともっと強くなりたい。自由を手に入れるために、もっと強く!
 親父の英才教育のプログラムの中ではたったひとつだけ自主的にオレの修行はいつまでも続けられていた。

「冗談じゃない!今更やめろなんて言われて素直に従えるかよ!」
 そんなオレの様子を見ていたのか、親父はある日突然今後一切武道の特訓は行わなくて良いなどと言い出した。すでに蟷螂拳の修行が厳しい毎日の中の息抜きとなっていたオレは激しく親父に抗議する。
「元々お前に拳法を習わせたのはいざと言う時に自分の身を守ることができる程度の力を身に付けさせるためだ。お前はもうそれには十分なほど強くなった」
「勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
 乱暴にイスを蹴り倒し、親父に詰めよる。スッと横から現れたボディーガードを片手で制し、動じた様子も無く親父は薄く笑った。
「やれやれ。拳法を習わせて強くなったのは良いが、少し気が荒くなったようだな。早々に拳法をやめさせて礼儀作法でも習わせねば・・・」
「ふざけんな。何もかもがあんたの思い通りに進むと思うなよ!」
 荒れ狂う思いのままいくら言葉をぶつけても、親父は決してひるまなかった。静かに冷たく、けれど確実な言葉でオレの自由を封じ込めている。
「オレはもっと自由に振る舞いたいんだ!」
 その言葉を何度親父に投げつけたかわからない。オレの力はまだ、有効に使われてはいなかった・・・。

 そして、そんなある日、チャンスは突然訪れた。
「リオン、話がある」
 ある日、改まった口調で話を切り出した親父はオレの前に一通の封筒を差し出した。
「これは?」
「これはある格闘トーナメントの招待状だ」
 親父の手から白い封筒を受け取り、オレは中を読む。そこには世界中から様々な流派の格闘家を集め、開かれるトーナメントのことが書かれていた。
「お前は常日頃、もっと自由に振る舞いたいと言っていたな。そこで、条件を出そう。もし、このトーナメントでお前が優勝したら自由に振る舞うことを許してやっても良い」
親父の口元に浮かぶずるそうな笑み。オレが優勝する筈がないとたかをくくっている顔だ。ああ、そうかい。親父がそういうつもりなら、オレを見くびったことを絶対に後悔させてやる!
「他に何か条件は?」
 親父の言い出したことだから、良い話ばかりの筈がない。
「優勝できなかったら、今後私の教育方針に一切反抗しないことだ」
 思った通り、親父は条件を付けてきた。オレはそれでも構わない。何故ならオレは絶対に負けないからだ。
「わかった。その条件、飲んでやるよ」
 時は満ちた。忌まわしいこの家の呪縛から逃れるチャンスは今しかない。この拳で自由をこの手につかんでやるさ。
「期待しているぞ、リオン」
 親父はオレの負けを期待してるんだろ?だけど、オレは絶対に勝ってみせる。自由を得る最大のチャンスと、今まで鍛えてきたオレの蟷螂拳の実力を試す絶好の機会にオレの胸は踊る。

 いかにも強そうな奴等が会場で待っていた。身体中の血が熱く煮えたぎった。身体にくる震えは喜びに満ちた武者震い。こんなチャンスをオレは待っていたんだ。
 神妙な顔でリングにあがる。相手が誰であろうとオレは負けない。
 そう。オレは誰にも負けないんだ!そして必ず自由を手に入れてみせる!
「FIGHT!」
 目も眩むような大歓声の中オレの熱い闘いが始まった。

【FIN】

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