ここはナイトメア。俗に言う悪夢の世界である。ナイトメアは夢の世界、ナイトディメンションの中に存在している。同じくナイトディメンションにある楽しい夢の世界ナイトピアに対し、ナイトメアは暗く、恐ろしい悪夢の世界なのだ。
我々が見る悪夢というものはナイトメアンと呼ばれる悪夢の住人が我々に見せているものである。ナイトメアンは、ワイズマンというナイトメアの支配者によって作られ、ファーストレベルからサードレベルまでのレベルが存在する。セカンド以上の高位のナイトメアンは自分にとって安全で居心地が良く、夢を見るものにとってはより深い恐怖を感じる独自のナイトメアを築くことができるのだ。
「ちぇっ、退屈だなぁ」
自らが作り出した心地よいナイトメア。その中央に据え付けた高見椅子に座っていたファーストレベルナイトメアンのリアラはつまらなそうな声で呟いた。彼は数少ないファーストレベルナイトメアンの一人で、ワイズマンの片腕的存在であった。
この椅子に座っていれば自分の作り出したナイトメア全体が見晴らせる。いつものようにおどろおどろしく暗く恐ろしいナイトメアの様子をリアラは退屈そうに眺めている。時折、セカンドレベルナイトメアン達から、ナイトピア侵攻の報告が入るけれど、概ね退屈な毎日だった。
「最近はオレのところまで来るような骨のあるヤツもいないしな」
ファーストレベルナイトメアンというだけあって、リアラが見せる悪夢は相当のものだ。夢の世界を訪れる大抵のビジター達はセカンドレベル程度の悪夢で怖がってしまうからリアラのところまで回ってこない。
「あ〜っ、ホントに退屈だっ!」
腹立たしげに叫んでみるが、空しいだけだった。
「こんな時にあいつがいれば・・・」
ふと呟いたリアラはハッとしたように首を振った。
「あんなヤツ、いなくていいんだ。いなくてせーせーするっ」
自分に言い聞かせるようにリアラは言う。
リアラが思い浮かべた相手…それはナイツという名のファーストレベルナイトメアンであった。ワイズマンに心からの忠誠を誓っているリアラに対し、ナイツは生みの親のワイズマンにも逆らうようなヤツだった。
いつも何考えているのかさっぱりわからなくって生意気なヤツ。
リアラはナイツが大嫌いだった。
いかにも悪魔的な外見、意地の悪そうな表情。リアラはそんな姿をしていた。ナイツは同じファーストレベルナイトメアンであったが、どこか憎めない悪戯っ子のような表情で、自分ほどビジターに怖がられていないようだった。
リアラとナイツはほぼ同様の能力を持っていた。リアラもナイツも同じように空を自由自在に飛ぶことが出来たし、パラループ、ドリルダッシュなどの強力な攻撃技も持っていた。
けれど、リアラとナイツは正反対の性格だった。そこがまたリアラには気に入らなかった。
だから、リアラは企んだのだ。ワイズマンに反抗するナイツの行動をどんな小さいことも逃さず逐一ワイズマンに報告した。次第にナイツのことを疎んじるようになり処分しようと考えたワイズマンに、ナイツをイデアパレスに閉じこめれば良いと助言したのもリアラだった。そして、ワイズマンはリアラの思惑通り、ナイツを夢の狭間であるイデアパレスに閉じこめてしまった。
イデアパレスに閉じこめられたらほとんど脱出する手段はない。イデアを持っている人間が中に入れば結界はとけるけれど、サードレベルナイトメアン達がビジターのイデアを奪っている。ナイツが復活することはもうないだろう。
だから、もう大嫌いなあいつの顔を見ることはないのだ。リアラは安堵した。ワイズマンに忠実に仕え、ナイトピア征服を目指して毎日を過ごした。
大嫌いなナイツ。もうあいつに会うこともない。
すっかり満足していたリアラの心の中に何か物足りない気持ちが生まれたのはいつ頃だったか。ワイズマンは自分を信頼し、セカンドレベルやサードレベルのナイトメアンは自分を恐れ服従している。時々訪れるビジターはナイトメアに心から恐怖し、打ちのめされて去っていく。申し分のない毎日の筈なのに何かが物足りないのだ。
「なんで、あいつの顔が浮かぶんだよっ」
そんな時、いつもリアラの心に浮かぶのはナイツの顔だった。あいつがいれば、オレは退屈しないですむのだろうか・・・そんなことを考える時間が増えた。
けれど、今更そんなこと考えても無駄だった。ワイズマンが一度ナイツをイデアパレスに閉じこめた以上、解放するはずがなかった。そして、イデアパレスを開ける人間もいない筈なのだから・・・。
そして、ある日。自分のナイトメアに誰かが入って来るのに気付きリアラは椅子の上で顔を上げる。
「ん?あれは…まさか!!」
リアラは大きく目を見張る。夢魔である自分がまさか夢を見ているのではないかと疑う程驚いた。
「ナイツ!!」
リアラのナイトメアに入ってきたのはナイツ。イデアパレスに監禁されていた筈のナイツがここに向かっているのだ。
「どうやって出てきたんだ、あいつ・・・」
リアラの驚きの口調。けれど、どこか喜びが混じっている。
「ちょうど退屈してたんだ。久しぶりにあいつをへこましてやるか!」
どうやってここまで来たのか。そんなことはどうでもいい。リアラは椅子から立ち上がる。久し振りに面白いことになりそうだ。
「良く来たな、ナイツ。お前はオレが叩きのめしてやる」
胸を張って宣言し、リアラは空へと飛び立った・・・。
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