Kiss Kiss


BY ゆうきゆうき


「…あれ?花梨じゃないか!」
 放課後、オレは校門の前に立っている皆月花梨を見付け、少々驚きながら声をかけた。
「亮ちゃん!」
 花梨は、回りの学生から遠慮無しに送られてくる視線を浴びながら、居心地悪そうな顔でオレに小さく手を振った。オレの高校は男子校だからこんなところに女の子が立っているとそれだけでとても目立つのだ。その上花梨はかなり可愛い。セーラー服もとてもよく似合っているし、長い髪もとても美しい。注目されない筈がない。
 で、花梨っていうのはオレ、佐伯亮二の小〜中学校時代の後輩。二コ下だから今、中2だ。オレは去年うちが隣町に引っ越すまでは花梨の家の隣りに住んでいた。つまりオレ達はいわゆる幼なじみってやつだった。
「どうしたんだ?」
 花梨の通っている中学からここまでは電車で五駅。とても遠いと言う訳でもないが何の用も無くわざわざ訪れる距離でもない。弾んだ心でオレは花梨の答えを待った。
「あのね…亮ちゃん。勉強教えてくれない?」
「勉強?」
 期待はずれの言葉にオレは少しがっかりしながら聞き返した。自慢になるようだけど、オレの通っている高校は有名な進学校だ。その中でもオレはちゃんと良い成績を取っている。それに比べて花梨はというと勉強嫌いであまり成績が良くなかった筈だ。
「うん。亮ちゃんくらいしか頼める人いなくって」
 そう言ってオレを見上げる花梨。相変わらず可愛い。オレ自身のテストも近いんだが可愛い花梨の頼みをオレが断れる筈がない。
「オレのうちに来るか?」
「うん」
 とりあえず、周囲の目を集めている花梨を促して、オレの家に向かった。その途中で花梨が事情を説明してくれた。何でも今度のテストで赤点を5つ以上取ったら、冬休み返上で補講だと言われたらしい。
「補講なんてさぼっちゃうつもりだったんだけど。しきってんのが城島センセだから…。あいつ、なんかしつこいんだよぉ」
 実のところ、花梨は少々問題児なのだ。花梨には学校をさぼる悪い癖がある。もっとも学校をさぼっていわゆる不良のするような悪いことをしている訳ではない。何をするという訳でもなく家でうだうだしていることが多いらしい。
 花梨がそんな風になってしまったのは中学に入ったばかりの頃に両親が離婚してからだ。今は花梨は父親と二人で暮らしているが父親は仕事が忙しくほとんど家には帰ってこない。花梨の両親が離婚したのもそれが原因らしいけど。
 それでもオレがまだ花梨の隣りに住んでいた頃にはちゃんと毎朝声をかけてやっていたから今よりちゃんと学校に行っていた。最近はどうなんだろう…。花梨の口から聞く限りではあまり行ってないように思える。
「花梨、相変わらずガッコ行ってないんだろ。城島センセだって心配してるんじゃないか?」
「でもっ。花梨が勉強苦手なの知ってるのに赤点5つで補講なんて意地悪だよっ。冬休みつぶれちゃうんだよ〜。城島センセひどいでしょ?」
 なんだかんだと言っても花梨が城島センセのことを気に入ってるということをオレはちゃんと知っている。オレも中学時代に城島センセに担任してもらったことがある。あのセンセは今時珍しいくらい良いセンセなのだ。花梨のことをちゃんと考えてくれているのは、城島先生だけだと思う。
「ちゃんと花梨が勉強すればいいんだろ?赤点4つまでならOKなんだから大丈夫さ」
「亮ちゃんは頭良いから簡単に言うけど〜」
「仕方ないな。とにかく勉強教えてやるから頑張るんだぞ」
 花梨にしてあげられることなら何でもしたい。勉強だってなんだって教えてやろう。  そう…オレは花梨が大好きなのだ。こんな可愛い幼なじみに恋しない男がいるものか。花梨がが冬休み中ずっと補講なんてことになったら、大好きな花梨にまったく会えなくなってしまう。そんなの嫌だからこっちも必死で教えてやる。
「サンキュ、亮ちゃん」
 少し照れたように笑う花梨は、自分がどんなに魅力的なのか知らないのだ。可愛くて可愛くて…もうどうしたらいいんだ〜と叫びたくなるくらい可愛いのだ。無邪気に笑っている花梨を見ているとオレは花梨の違う表情を見たくなって、わざと意地悪く言ってみたりしてしまう。好きな子いじめるあたり…オレも精神年齢結構低いよな。ま、いいか。
「そのかわり、オレは厳しいぞ。みっちりしごくから、覚悟しろ」
 オレの言葉を聞いて、嫌そうに眉をしかめた花梨を連れて、オレは家の中に入った。

 自分から教えてくれと頼んだくせに、すぐに勉強に飽きてしまって、花梨は横になってこたつに肩まで潜り込む。まるで猫みたいな仕種がとても可愛い。でも、勉強を教えると言った以上、甘やかすわけにはいかない。それに、花梨が赤点5つ取ったら冬休みに全然逢えなくなってしまうんだから。オレは気合い入れてるんだぞ。花梨、お前も気合いを入れろ!
「花梨、やる気がないならもうオレは教えないぞ」
 怖い顔をして脅すと、花梨は慌てたようで困った顔で謝ってきた。その顔がまた可愛くてにやけそうになったオレは慌てて顔を引き締める。
「亮ちゃん、ごめん。ちゃんとやるから教えて」
 もそもそと起き出して、花梨は教科書を開いた。
「本当に反省してるか?」
 キッと睨んでやると花梨はますます困った顔。そんな顔されると苛めたくなるなぁ。オレは性格悪いから。
「花梨。本当に反省してるなら、お詫びにキスしてくれないか?そしたら続きを教えてやるよ」
「キス!?」
 花梨はオレの言葉を聞いて目を真ん丸にして驚いている。無理もないよな。オレが花梨のことを好きだってことを花梨は全然知らなかったんだから。
「冗談でしょ?」
「冗談なんかじゃないぜ。花梨、ずっとお前のことが好きだったんだ」
 可哀想なくらいに驚いて花梨はオレを見ている。顔はもうゆでダコみたいに真っ赤だ。「だから、キスしよう。そしたら続きを教えてやるよ」
 意地悪く微笑んで目を閉じる。花梨の気配が近付いてくるのがわかった。息がかかるくらい近くに来た花梨がためらっている。
「どうした?花梨、もしかして怖いのか?」
 目を閉じたまま尋ねると、不貞腐れたような花梨の声が返ってくる。
「馬鹿にしないでよ。こんなの怖いはずないでしょ」
 花梨の言葉が終わるのと同時くらいに唇に暖かい感触。唇が触れただけの花梨の幼いキス…。
「キスしたもん。勉強教えてよね」
「はいはい」
 オレの我が侭に付き合ってくれてありがとう。だけど、花梨もオレのこと好きだろ?キスした時にわかった。
「花梨、無事にテストが終わったらデートしよう」
「バーカ」
 その時は、キスだけじゃなくてもっとすごいことも教えてあげられたらいいんだけどな。もっとも…まだ花梨は子供だから大したことはできないけれど。とにかく、花梨がもっともっとオレのこと好きになってくれたら…どんなに幸せだろうか。
「亮ちゃん、この問題わかんな〜い」
「どれ?ああ、これか。これは…」
 そのためにはまず目の前のテストをクリアーしないとな。花梨と二人っきりで勉強なんていう棚からぼた餅みたいな今のシチュエーションも結構楽しいけれど。
「ほら、そこの答え。間違ってるぞ」
 厳しい家庭教師の顔を作りながら、オレは心の中で思い切り笑っていた。

【Happy End?】

1996.4.18 finished
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