Milky Way Calling


BY 如月星羅


 アドレス帳なんて見なくても、指がすっかり覚えているテレホンナンバー。でも、こうして電話するのは随分久し振りだ。コール三回…呼び出しに答えて相手が出た。
「はい、もしもし。森山です」
「よお、美咲。元気か?失恋の痛手はもう癒えたかい?」
 電話の相手は学生時代からの友人、森山美咲。男女間の友情は成立しないと言うけれど、俺達は失恋の話でさえ語り合うことのできる大親友だった。
「弘志?どうしたの?前は毎日のように電話くれたのに、何だか随分久し振りじゃない。あなたが電話してこない間に、もうすっかり失恋の傷は癒えたわよ。もっとも、相変わらず一人だけどね」
 けれども結局、男女の友情は長続きしないのだ。どちらかが恋愛感情を抱いてしまうから。俺は美咲の声が聞きたくて、いろいろ理由を作って毎日美咲に電話していた。これ以上それを続けていたら、俺の想いが止らなくなって、俺達の友情が壊れてしまう。そんな恐れが、ここ数か月、プッシュボタンを押す手を止めていたのだ。
「美咲。部屋の明りを消して、窓を開けてみな」
「弘志。突然何よぉ?開けたけど?」
「星、見えるだろ?天の川」
 俺の部屋から見える満天の星空。きっと美咲も同じものを見ているに違いない。何だかとても不思議な気がする。
「ホント、綺麗ね。でも、急にこんなこと言い出すなんて…どうしたの?」
「今日、七夕だろ?珍しく晴れてるから、織り姫と彦星が逢えたんだなって思ってさ。せっかくだから、美咲と二人で星見て、祝福してやろうって訳」
「相変わらず、ロマンティストねぇ、弘志」
 美咲が呆れたように笑う。
「なぁ、美咲。お前、もし、七夕の二人みたいに一年に一度しか恋人に逢えないとしたらどうする?」
「そうね…。私だったら、きっと毎日電話するわ。ねぇ、弘志。どうかしたの?今日、何か変よ」
「俺、来月から海外勤務なんだ。ニューヨーク支社」
「おめでとう、弘志。夢がかなうじゃない」
 確かにニューヨークで暮らすのは学生時代からの俺の夢だった。それに、もちろん栄転だ。ニューヨークから戻ったら、エリートへの道が俺を待っている。それでも、たった一つの心残りが俺の気持ちを日本に引き止めていた。 「ああ、ありがとう美咲。それで、俺、ニューヨークに行く前に、美咲に言っておきたい事があるんだ。今、それを言うのは卑怯かもしれないけど」
「なぁに?弘志」
「俺さ…ずーっと前から美咲のこと、好きだった。好きだよ、美咲」
 びっくりしたように、美咲は一瞬沈黙する。
「ホント、卑怯よ。ずるいわ」
 美咲の怒った声。ごめん、美咲。俺達の友情を壊してしまって。そんなことして、ニューヨークに逃げるなんて最低だよな、俺」
「ニューヨーク勤務、どれ位の期間なの?」
「最低でも二年。いつ帰ってくるかは分からない」
 だからこそ、告白したんだ。ずるいかもしれないけど、美咲に振られた痛手は遠いニューヨークでゆっくり癒すつもりだ。
「一年に一度くらいは帰ってこれるの?」
「ああ、多分」
「まるで七夕ね」
 そう呟いた美咲が再び黙り込む。七夕って…美咲、それは一体どういう事永遠に感じたその沈黙の後、美咲は宣言した。
「私、毎日電話するわ。私も好きよ、弘志」
「電話代…大変だぞ。」
 バカみたいなこと言ってるな、俺。ああ、まるで夢みたいだ。
「それくらい構わないわ。好きよ、弘志」
 俺達の友情を繋いでいたTelephone Line。これからは二人の愛を繋いでくれる。いつまでも、いつまでも・・・。

【FIN】

1992.5.25 finished
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