時間の魔法


BY 如月星羅


 やっと着いたぜ。10年振りの日本だ。成田空港に到着した俺は、長いフライトの疲れを吹き飛ばす為に大きく伸びをした。12才のとき、親の仕事の都合で渡米して以来、初めての帰国。大学まではあっちで卒業した。それでも仕事は日本でしたいと思い、俺は日本に帰って来た。
「それにしても…何だよ、この黒髪の集団は」
 10年もアメリカで過ごしていた俺にとって、黒髪ばかりの日本人はちょっと不気味に思える。自分も黒髪なのに、俺は黒髪が嫌いなのだ。
 それにしてもこんな中からちゃんと探し出せるかな。ここには叔父夫婦が迎えに来てくれている筈なんだけど…。すぐに分かると思ったけど、甘かったみたいだ。お互いに会うのは10年振りなんだから、すぐには分かんねーよな。やっぱり。
 参ったなぁ。目は空港の雑踏の中を彷徨うが、叔父さん達は見付からない。
「ん?」
 俺と同じ様にキョロキョロしていた少女と目が合った。高校生だと思う。赤いリボンのセーラー服が良く似合っていてとても可愛い女の子。
「お兄ちゃん、見付けた!」
 目を輝かせてその少女が駆け寄ってくる。ちょっと待てよ。俺、こんなセ知らないぜ。俺が探してるのは叔父夫婦なんだから、人違いじゃない?
「お帰りなさい、雪人(ゆきひと)お兄ちゃん」
 どうやら人違いじゃないらしい。俺の名前は高木雪人。この娘の言う通りだ。でも、ふわふわした長い髪の良く似合う、綺麗に微笑むこの娘は誰?
「えーっと、君は?」
「お兄ちゃん、忘れたのぉ?夏姫(なつき)よ。高木夏姫」
「夏姫?!お前、あのお転婆夏姫かよ!」
 俺の目の前で上品に笑うこの少女があの従妹の夏姫だなんて信じられない。10年前は男の子みたいなショートヘアで、元気でお転婆だった夏姫。いつも無茶ばっかりしてた7才の女の子。自分で登ったくせに高い木から下りれなくなって、わんわん泣いてたこともあったよな。ちくしょー。とうしても、目の前のこの娘とあの夏姫が同一人物なんて信じられないぜ。
「お兄ちゃん、ひどい。私はすぐにお兄ちゃんのこと分かったのに」
「だって、お前が変わり過ぎてたから…」
 本当に別人のようだ。やっぱり10年って長いよなぁ。あのお転婆娘がこんなに綺麗になってるなんて…。
「そんなに変わったかしら?」
首を傾げた夏姫の綺麗な黒髪がふわりと揺れる。うーん、やっぱり黒髪も悪くないかも。うん、俺は黒髪が好きだ。やっぱり日本人は黒髪だよな。
「びっくりするくらい変わったぜ。魔法をかけられたシンデレラみたいに綺麗になった。男の子みたいだったのに、すっかりお姫様になってる」
 言ってしまってから急に照れ臭くなる。真っ赤になった俺に微笑みかける夏姫。本当に綺麗だ。
「お兄ちゃんの為に綺麗になったんだもん。覚えてる?」
 夏姫の言葉に頷いた。覚えているさ。俺がアメリカに行くと知って、男の子みたいに泣き出した夏姫と、月夜の晩に約束したこと…。
『泣くなよ、夏姫。夏姫が綺麗な女の子になったら、必ず迎えに来るから。夏姫をお嫁さんに貰ってやるよ』
 あの時は、夏姫を泣きやませる為にとっさにそう言ったんだけど、得したかもしれない。こんなに綺麗になるなんて…。
「お兄ちゃんが迎えに来てくれるようにって、月に祈って綺麗になったわ」
 月に祈り、時間(とき)の魔法をかけられて綺麗になった俺のお姫様。
「そうだな。迎えに来たよ。夏姫」
「雪人お兄ちゃん…。」
 俺は夏姫を抱き締める。いとこ同士だから結婚だってできる。何よりも、俺は、これから、もっと綺麗になるだろう夏姫を側で見守りたいのだ。
「叔父さん達、来てるんだろ?びっくりするだろうな。突然、夏姫を俺にくださいなんて言ったら」
「きっとね。でも、反対されても夏姫はお兄ちゃんのお嫁さんになるわ」
 夏姫は笑う。昔と違う綺麗な笑顔。それなのに、笑顔に隠れた夏姫の心は何も変わっていない。強くて、まっすぐな夏姫の心。男の子みたいに笑ってた記憶の中の夏姫が目の前の夏姫とだぶる。俺は夏姫の純粋な心が好きだった
 それは、きっと今でも変わらない・・・。

【FIN】

1992.6.24 finished
[優子の部屋 HOME] [ライブラリYUKO] [TMNイメージ小説の部屋]

ご感想・ご意見はこちらまで
平田優子E-mail Address:yuko-h@sannet.ne.jp
小説作品の感想送信用フォームもどうぞご利用ください