We love the EARTH


BY 如月星羅


「最後の移民船も行ってしまったわね」
 遠い宇宙(そら)を見上げ、少女が呟いた。
「そうだな」
 その言葉に答えた青年も宇宙を見上げる。
「どうして行かなかったの?私のため?」
 少女は真っ直ぐな瞳を青年に向けて問い掛けた。人々の争いや欲望で汚れてしまった地球(ほし)。この惑星にこれ以上住むことはできないと、人々は移民船で遥かな宇宙へと旅立って行ったのだ。それでも、この惑星を離れることはできないと少女はこの惑星に残った。
「どうしてだろうね」
 青年は宇宙を見上げたまま答えた。その顔には微笑みが浮かんでいる。エリート階級に所属していた彼は、この惑星を汚してしまう計画に参加していたしかし、移民船に乗っていれば、移民先でエリートとしての何の不自由もない生活を送れたはずだ。それなのに、何故、彼はこの惑星に残ったのだろう
 それは青年自身にもわからなかった。汚れた惑星から見える宇宙は、昔のように星々に飾られてはいなかった。
「夢を見たんだ。昨日…。見たこともない美しい街。緑に包まれたこの惑星の夢を…」
「緑の街の夢…?私と同じ夢だわ」
 少女と青年は見つめあい、お互いの瞳の奥を探りあう。
「もう…この惑星には誰も残っていないのね」
「そうだな。僕たちのように自分の意思でここに残った人間は他にはいないだろうしね」
 暗い空…澱んだ空気…汚れた海。この惑星がかつて美しかったと言っても誰が信じるだろうか。
「私はどんなに汚れてしまってもこの惑星が好き。だから離れることなんてできないの」
 少女は呟いた。青年は少女の細い肩を抱き締める。
「僕は…君のようにこの惑星を愛せなかったけれど、こうして君と二人で生きて行けたらきっとこの惑星を好きになれるよ」
「そうね」
 目を閉じた少女に青年が口付けた。それはそっと触れるだけの、かつてのこの星の大気のような優しいKISSだった。
「僕がこの惑星に生まれたのは君に会うためだったのかもしれない」
 青年は少女との出会いを思い出す。エリートとして自分の参加する計画を信じて自然破壊を続けていた頃、一本の苗木を庇って大怪我をした少女。彼女と出会ったことによって青年の価値観は根底から覆されたのだ。惑星を愛する。この汚れた惑星を…。少女のそんな行動が青年を変えたのだ。
「惑星が泣いているわ」
 少女が囁いた。二人の耳には惑星に吹く風がまるですすり泣きのように聞こえている。
「本当だね」
 青年は静かに答える。この惑星を泣かせたのは自分。そんな思いが青年の心に浮かぶ。
「行きましょう。緑の街を捜すの。きっとこの惑星の何処かにあるわ」
「そうだね…Luna」
 月…Lunaと呼ばれた少女は微笑んだ。
「二人の夢を…緑の街を捜しに行きましょう。きっと見付かるわ。あなたと 一緒なら」
 Lunaが青年に手を差し伸べる。
「愛してるわ。この惑星もあなたのことも…Earth」
「僕も愛してる。君を、そして…きっとこの惑星のことも」
 差し出されたLunaの手を青年は強く握り締めた。この傷付いた惑星と同じEarthという名を持つ青年と、空に浮かぶ月と同じ名を持った少女は力強く歩き出す。愛する地球の大地をたった二人で。
 ・・・We are just creatures on the earth・・・
荒れ果てた地球の風に乗って、青年が少女のために歌った歌が、どんな言葉よりも優しく輝いて響いていた。

【FIN】

1991.5.8 finished
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